魂揺らし ―弐―






ごくたまに鏡に映る自分を見るカガミ。
そこに映っているのはイルカだ。
カガミは術の所為で違和感なくその姿を見ているようだが、その彼を通して見ているイルカは気も狂わんばかりの思いだった。日に日に衰えていく姿はカガミだけでなくイルカの憔悴した心そのままであり、その姿を見て三代目やイビキが眉を顰めるのをただ傍観することしか出来なかった。自分を気に掛けてくれるあの人たちにあんな顔をさせてしまっているのが申し訳なくてやりきれない。
そしてこの部屋にほとんど姿を現さないカカシに募る想い。
たまに現れてもカカシは厳しい顔でこちらを見つめるばかりだった。確かに中身はカガミだから意思の疎通もなにもないのだけれど。
話を出来るわけでもないのにカカシのあんな視線を受け止めるのが辛い。あんな風に見られるのは耐えられなかった。初めて出会ったときには向けられた気配に怯んだものだけれど。緊張もしたし逃げたいとも思ったけれど。でも、互いの最後をみよう、ふたりで過去から抜け出そう、そう言ってくれたカカシは既に自分の唯一になっているのだ。
そのカカシにあんな目で見られるのがイルカには堪らなく辛かった。
…でも。
それでも逢いたい。
忘れられてしまうほうが何倍も辛いから。
だからココから出してくれと、誰に頼んでいるのかもわからずに声を上げ続けた。自分を閉じ込める壁を叩き続けた。

俺はここから出たい。
カカシさんのいる処へ戻りたい。
ここから出たい…!

けれど、カカシに声は届かなかった。


□■□■□


久し振りに顔を出したカカシは酷く苛付いた顔をしていた。しかも顔の輪郭が一層鋭くなっている。カガミはほとんどカカシを見ないのでちらりと窺えただけだったがイルカが普段見ないような顔をしていた。
突然カカシがカガミに話かけた。
「あんたさあ、何で自分が生かされてるのか解ってんの?」
カガミが緩慢な仕草でカカシのほうへ顔を傾けたのでその顔を正面から見ることが出来た。だがその表情が更に険しくなり突然印を組みはじめたのを見てイルカは息を呑んだ。溢れ出す殺気にイルカの身体が震える。身体の反応はカガミのものだがそれはある意味イルカの心の反応でもあった。
「ねえ、あんた本当は死んでるんだよ? はっきりいって邪魔なの。この人の、イルカの身体からさっさと出てってよ」
カカシが身の凍るような殺気を発したまま近付き、薄く笑いながら耳元に息がかかる程顔を寄せた。
「これはイルカの身体。あんたのじゃない。返せ」
「な…、なん…」
カガミが震えながら逃げようとした。
「もーいいよ。あんたは黙っててよね」
カカシの手が髪を撫で、指が頬を伝って顎を上に向かせる。そのまま噛み付くように口付けられた。イルカの身体はカガミの反応として強張ったまま動かず、顎を固定されたまま口腔を犯される。奪われるばかりの口付けに肺が悲鳴をあげ、身を捩ると唇をガリッと噛まれた。
「あーあ、血が出ちゃったじゃない。イルカの身体に傷つけさせないでよ」
「や、あ、やめ、いゃ、だ…っ…」
カガミが怯え益々苛立ったカカシは髪を掴んでその身体を引き倒した。そのまま堅い床に這わせて片腕を背中に捻り上げられる。
だがイルカは呆然としていた。
泣き笑いのような顔をして声を掛けてくるカカシに。
「抵抗しないでよ。イルカはそんなことしないんだから」
「や、やめてく…っ…、はたけ、じょ…!」
ここにいるイルカにはイルカの心がないことを知っているのに、それでもイルカを求めているカカシ。イルカを返せと叫ぶカカシ。
押さえつけられ拘束され、獣のように這わされた身体は逃げようともがいている。
けれどそれはカガミであってイルカではない。

そうじゃない。
俺はこの人を抱きしめたいのに。
抱きしめて俺はここにいる、と。離れたりしたくない、と叫びたいのに。

「イルカは俺を拒んだりしない。俺を恐れたりしない。…返せ。…俺の。俺にイルカを返せッ!」
悲痛なカカシの言葉に涙が零れた。俺は何故この人をここに一人置いてきてしまったのだろう。ずっと一緒にいると言ったのに自分は何故。
身体の痛みは自身の痛みそのものだ。カガミが感じているのと同じ痛みを自分も感じているが、それをカカシの痛みとしても感じる。頬を幾筋も涙が流れ落ちていくが、それは痛みの所為ではなくカカシを想って溢れ出るものだ。
やがてカガミが意識を失い、イルカもまた闇に落ちた。


どこか遠くで泣きながら自分を呼ぶ声がしたような気がする。


□■□■□


ふと浮上した意識にイルカはぼんやりとあたりを見回した。
そこはまだ内側の世界。
でも、自分はここから出なくてはならない。
カカシの元へ帰らなければならない。
ここで嘆いていても何にもならないのだから、何かを始めろ。頭を動かせ。
戻らなければ。
この暗闇の中で自分に今出来ることは?
《揺らして》いてこんなことになってしまったのだ。
いつもなら三代目のチャクラにしか反応しないのに、どこかで何かが歪み絡んでしまっているのかもしれない。まずは三代目のチャクラを捜してみるしかない。


イルカは目を閉じて整息した。
それから周囲に意識を飛ばして慎重に三代目のチャクラを辿ってみる。
もやもやとした暗闇の中、神経をぎりぎりまで研ぎ澄ませて、広く、遠く。
いつも自分を繋いでくれた暖かいチャクラを捜す。
遠く。
深く。
もっと深く。
手を伸ばして、探る。


そして見つけたのは、懐かしい、あの人。



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(2005.09.03)

イルカサイドというか…。イルカとカガミがごちゃごちゃしててすみません。でもイルカはそこにいるのです。




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