魂揺らし ―弐―






「どうなんですか三代目っ!?」
「煩いぞカカシ。少しは落ち着け」 
苛々とした声をあげるカカシに三代目がちらりと目線をやり、再び寝台に戻した。
任務先からイルカの身体に衝撃を与えないように細心の注意を払い、なおかつ鬼のように急いで駆けてきたカカシはすぐに三代目の屋敷に飛び込んだ。
警備の者達の制止を物ともせず血相を変えて飛び込んできたカカシを、三代目はイルカから引き離してすぐさまイビキを呼んだ。駆け込んできたイビキと二人で何やら話し合いイルカの周りに方陣を敷く。結界のようなもので押さえられて身体の痙攣は治まったが意識は戻らず今に至っている。
「落ち着いてられる訳ないでしょ? こんなの初めてじゃないですか!」
「うむ。イルカは初めてじゃな…」
「イルカは…って、前例があるんですか?」
「あれの母親がな、一度あったのう…」
「じゃ、どーやったら治るんです?」
目の前の寝台で白い顔をして眠っているイルカ。
「母親の時はな、そう酷い症状でもなかった。同じような痙攣が出ていたがすぐに治まったしの」
「じゃあイルカもすぐに治るんですよね?」
「ともかく意識はじき戻るじゃろう。イルカの意識が戻らねばなんとも言えん」
何となく歯切れ悪く三代目は答えた。カカシは苛ついて唇を噛んだが、質問を変えて三代目に食い下がった。
「あの式は何であんな状態に?」
カカシの刺のある視線を無視して里長はイルカの額に手を当てた。
「ふむ。簡単に言えばチャクラが崩れていたということかのう。不完全な形で式が出来たからイルカは引っ張られたのかもしれん。元のチャクラの欠けたところをイルカのチャクラが補っていたが、予想以上に合わなかったのだろうな。わしの所に来た式も不完全な状態だったからの…、あれでは情報が足りん。だからイルカの意識が戻らねばなんとも言えん、と答えておる」
「イルカへの影響は?」
「…まだわからんよ。そう起きることではないのじゃから」
「イルカの母上の時はどうだったんです? イルカはその時の事を覚えているんですか?」
「ふむ…。あの時は同じような痙攣と意識が戻ってから多少の意識の混濁がみられたが…、そう長いものではなかったな。イルカは覚えておるじゃろうよ。あれにしたらショックが大きかった筈…」
「ショック?」
「ん、いや、イルカはもう技を覚え始めていたしのう…」
「そういえば十歳くらいから始めたと言っていましたね。自分がそうなる可能性は知っていたわけだ…」
「ともかく、いま少し待て。母親の時はすぐに治ったのじゃし」
「じゃあイルカも」
「断言は出来ぬ」
やはりはっきりしない三代目の受け答えにカカシは苛立ちを押さえきれない。
「そんな…」
カカシが尚も食い下がろうとした時、イルカの瞼がピクリと動いた。ふたりの見守る中でゆっくりと目が開かれる。
「う…、ん」
「イルカッ!」
縋り付こうとするカカシを手で制して三代目は落ち着いた声で呼びかける。
「気が付いたか?」
「あぁ…、私は…」
「ここはワシの屋敷じゃよ」
「あ…、ほ、かげ、さま…っ!」
イルカを見て三代目がほんの僅かに眉を顰めた。
「落ち着くのじゃ。何も心配せんでよいからの」
「火影さま…、も、申し訳ありません! 私…、私は…っ!!」
声をかけられたイルカは力の入らない様子で起き上がろうとしたが、いつの間にか入ってきたイビキに押さえられ再び仰臥した。
「よいよい。落ち着いてもう少し眠るとよいぞ」
「う、ううっ…、申し訳…っ…」
大粒の涙をぽろぽろと零しながら両腕で顔を覆って泣いているイルカにじっとしていられなくなったカカシは、三代目の止める間もなく枕元へ駆け寄りイビキを押し退けるように枕元に跪いた。心配気に顔を歪ませたままイルカに声をかける。
「イルカ…、大丈夫? どこか痛いとか、辛いとかない?」
その声にイルカは顔を覆う腕を少しずらして横にいるカカシを見る。涙に濡れた瞳でカカシをじっと見つめると呟いた。
「……だれ?」
瞬間、カカシの表情が落ちた。
「あの…、あなた、は…?」
イルカが怯えたような小さな声をかけるとカカシが目を細めてそれを見返した。
「…何?」
三代目とイビキが顔を見合わせる。
「何言ってんの?」
言いながらカカシは無表情のままイルカの肩をぎしりと掴んで寝台に押し付けた。
「うあぁ…っ!」
イルカから悲鳴が上がり寝台が軋む。
「何で…! イルカッ!」
「カカシやめんかッ!」
三代目の声と共にイビキがカカシの身体を後から羽交い絞めにした。イルカに全神経が向いていたカカシは抵抗する間もなくあっさりとイビキに拘束され、必死の形相で三代目を睨みつける。
「だって、おかしい…! イルカ…、イルカが…っ!」
「おぬし…、いいから落ち着け。説明してやるから部屋から出よ。病人相手に暴れおって、これではあやつが休めんではないか」
三代目は溜息を吐いて首を振る。
身体を弛緩させたカカシはイビキに引き摺られるように部屋から出されたが、ぶつぶつと口の中でイルカの名を呟き続けていた。



BACKNEXT



(2005.03.22)

またイルカを具合悪くしてしまいました(汗) 苛めているわけではありません。
イルカスキーです、私〜!





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送