過ぎる日もまた 3









カカシが任務に赴いたのは、子(ね)の国だった。

子の国は多くの金鉱を持つ潤沢な国であったが、それ故に利権争いが激しく、国主や里長がたびたび変るので常に国としてのまとまりに欠けていた。
これではいずれ周りの国に侵食されてしまうのは予想に難くなかった為、その中でも比較的大きな篝火の里が、国をまとめる為の礎を木の葉に依頼してきたのだ。

提示された破格の報奨は、建て直しを続ける木の葉にとって欠くべからざるものだったので、五代目は一考の後これを受け入れた。そして時を置かずして篝火の里に何人かの手練を送り込む。
写輪眼を長期間投入するのは痛手だったが、里にはサスケもいる。次世代を育てるためにもいい機会だと考えたのだ。

まだ若い篝火の里の長を補佐する形でカカシは子の国に入った。
補佐といっても、実際は里長から常に離れず、護衛と参謀を兼ね、顔を変えて裏ではなく表舞台に立つものだった。

カカシは初めからごく平凡な、当たり障りのない表情をした男に化け、ナガレと名乗って里の中心部に入り込んだ。当然ごく一部の人間を除き、里の者であっても写輪眼という正体を知らされていなかったし、そのほうがカカシにとっても色々とやり易かった。木の葉との連携も自分からは一切しない。
周りが敵だらけなのには慣れている。
刃を向けてくる敵忍より一般人の方が多いのは勝手が違ったが、それも始めのうちだけだった。




この国の風景は一見木の葉に似ている。山が多く森もある。

しかしあちこちに坑道が口を開け、それぞれの里が挙って採掘しているから景色もだんだん茶色くなってしまった。火影岩のような象徴もない。



「ナガレ補佐官?」
窓の外を見ていたカカシに秘書が声を掛ける。
「ん?」
「すいません。決裁をお願いしたいのですが」
「わかった。こちらへ」
席に腰掛けて書類に目を通していると秘書が茶を入れてきた。

「お疲れですか?」
「いや、考え事をしていただけだよ」
「私が言うのは僭越ですが、たまにはお休みを取られた方がよろしいですよ?」
カカシの決裁した書類を端から片付けながら言う。この男はなかなか使える人物なので、カカシとしても助かっていた。

「休んでもすることないしね。飲み仲間がいるわけでもなし」
「お国が懐かしいですか?」
ナガレという男は、里長が政治の意見番として他国から連れて来たという事で通っており、子の国出身ではないのが既知の事実だ。
「んー、たまにはね。残してきた人もいるし」
「おや、それは聞き捨てならないですね。こんなに長い間放っておいたら嫌われてしまいますよ」
同行されればよかったのに、と首をひねる。

「ま、仕事だからね。それにあの人なら心配ない」

「これはこれは。ご馳走様です」
ゆったりと微笑みながらの言い様に、惚気と取って秘書は笑った。
「おっと、あと30分で閣議です。ではナガレ秘書官、私は準備がありますので失礼します」
ああ、とカカシは秘書が出て行こうとするのを呼び止めた。
「昨日の計画書だがあのままじゃ駄目だね。金をばら撒くだけでは人はついてこない。俺が出向いて一説ぶってもいいよ? 直しておいてね」
秘書は分かりましたと礼をして退出していった。


一人になった部屋でカカシは呟く。

「イルカ先生…会いたいよ」

その名を口にするだけで、優しいような、切ないような気持ちになる。



政治、瑣末な行事など、木の葉の里にいれば経験することのない様々な事象を淡々とこなしていく。
里長を国主に推し上げ、政情が安定するまでは国から離れられない。文句など言っているヒマもなかった。
更に里長の地位が上がるにつれ暗殺者が飽きず送り込まれてくるのでそれらを一掃し続け、なんとか落ち着いた形にもっていくのに何年もかかった。
それでも、少しでも早く木の葉に帰るため、カカシは精力的に立ち回り、篝火の里長の元々の才能も相俟って当初の予想より数段早く任務を終わらせたのだ。



全ては一刻も早くイルカの元に帰る為に。













「ぐ…ッ、かはッ…!」


イルカの口から鮮血が零れた。すぐに吸引されるが、次々と溢れてくる。
暴れるのを防ぐために着せられた拘束服が赤く染まっていく。
その横には二人の女性が立っており、一人がイルカの縛られた手を握り締めていた。



「がんばって…」


祈りにも似た、小さな響きだった。





2へ





や、イルカいぢめではないのです…。


(2004.02.19)






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