過ぎる日もまた 2









「イルカ先生」
アカデミーの廊下でサクラがイルカに声をかけてきた。中忍になったサクラは今年からここで教鞭をとる同僚になった 。明るく朗らかな彼女は生徒達にも慕われているし、同僚達ともすぐに打ち解けて、イルカとしても頼もしく思っている。

「ん、何だ、サクラ?」
「この資料なんですけど…」
腕に巻物を抱えて言いかけたサクラが、じっとイルカの顔を見つめる。
「先生なんだか顔色悪いですよ?」
「そうか?そんなことないけどな。まぁ、センセーも年だからなぁ」
頭に手をあてて笑うイルカに、サクラもつられてクスリと笑う。
「年だなんて…。イルカ先生働きすぎなんですよ。ナルト達も心配してた」
「そうか、気を付けるよ。心配してくれてありがとな。ほら、次の授業まで時間ないぞ」
「あ、ホントだ。この資料明日までお借りしますね」
そう言ってサクラは教室へと急いでいく。



サクラが見えなくなって。

イルカは小さく溜息をついた。



夜になってサクラは上忍控室にいたサスケに声をかけた。
「ねぇ、最近イルカ先生に会った?」
「いや?」
何か、という表情をするサスケにサクラは続ける。
「気のせいだといいんだけど…。なんだか顔色が悪いのよね。どこか具合悪いのかも」
「…わかった。ナルトにも言っておく」
サスケは少し考え込んでから言った。サスケとナルトは既に上忍となっていて、それぞれの任務をこなす立場にいた。
自分の桃色の毛先を弄びながら、サクラは軽く溜息をつく。
「もう三年になるね。カカシ先生が任務に出てから。相変わらず直接の連絡はないの?」
「ああ」
「イルカ先生も寂しいよね」
「ああ…」
カカシとイルカの仲を知ったとき、三人は少なからず衝撃を受けた。特にナルトは一時カカシに対して強い反感を抱いていたが、イルカの自然な対応で次第に態度を軟化させた。サスケやサクラも似たようなものだ。カカシの態度は終始変らなかったが、イルカを大事にしていることは子供達にもよく伝わっていた。

二人の師を想って、サクラは切なくなる。
忍だから。それはわかってるけど。
そばにいる時には冷やかしたりしたけど、今ではそんな事とても出来ない。きっとそんな事しても、あの人は悲しそう な顔で、それでも微笑むだろうから。


「泊まりに来てやったってば!」
ナルトの相変わらずの大声にイルカは苦笑した。さすがに腰へのタックルは少し前から勘弁してもらっている。人より小さかったナルトも今ではイルカの背を追い越しているからだ。
「メシたかりに来ただけだろう? お前の方がよっぽど高給取りなのになぁ?」
それともサクラに頼まれたかな、そう心の内で思いながらもイルカは夕食を作り、二人で食べた。
よく食べるナルトをイルカはニコニコと笑いながら眺め、布団を並べて他愛のない話をしながら眠りについた。




―ナルトの奴、結局何も言わずに帰ったな。
翌日、いつも通りの仕事をこなしながらイルカは思い返していた。
しかし、午後になって三人が顔をそろえて自分に会いに来たのを、やはりと思いながら静かな目で見つめる。
「どうした、雁首そろえて?」
一瞬間をおいてナルトが口を開いた。
「イルカ先生、どっか悪いんじゃないの?」
妙に緊張した、強張った顔だったからイルカは思わずくすりと笑った。
「笑い事じゃねぇってばよ」
ナルトが憮然として返した。あとの二人も探るような目付きでイルカをみている。
「悪かったよ。おまえらがあんまり真面目な顔をするもんだから。だが、お前達に心配してもらう程のことはないんだよ。ちょっと疲れが溜まってるだけだ」
「でも…っ!昨夜だってイルカ先生はほとんどメシ食ってないってば」
「そりゃ、お前と比べればなぁ。俺だってそれなりに食べてたぞ?」
でも…と続ける自分より高い位置にあるナルトの頭をグリグリと撫でる。
「ありがとな、心配してくれて。サスケとサクラも。でも、先生は大丈夫だから心配するな」
「本当に?」
三人の顔を見渡して、イルカはにっこりと笑った。
「ほら、自分達の仕事があるだろ?自分の持ち場に行きなさい」
イルカに促されて、何となく小突きあいながら三人は離れていった。


…もう…ダメ、かな…。

独りごちてイルカは火影の部屋へと足をすすめた。





サクラはあの後どうしても気になって、もう一度イルカと話をしようと思っていた。
「しつこいって怒られちゃうかなぁ」
けれど、何故だか胸がちりちりと痛むように気になるのを押さえきれなかったのだ。
「もう一度だけ、ね」
夕方になって、自分に言い聞かせてアカデミーを探すと、イルカはもう帰ってしまったようだった。どうせ帰り道と 同じような方向なんだから、道すがらイルカ先生の部屋によってみようと踵をかえす。

だが、サクラはそれを後悔することになる。

近づいたイルカの家の玄関先で、イルカが女性と話をしている。小柄で可憐な雰囲気の。
「見たことない人…」
思わず気配を消して聞き耳をたててしまい、その自分に少し動揺する。
(何やってるんだろ、私)
サクラは身を固くしながらも会話を拾う。


 ―待たせてしまったけれど…

 ―やっと決心がついた…

 ―そう言ってもらえて…

 ―うれしい…

 ―できるだけ早く…


イルカがその女の腕を掴むように動いた。

え…っ、なんだろう、これは。
その人と? なんでなんで? だって、カカシ先生は?
ねぇ、待ってたんじゃないの?
イルカ先生?

サクラは混乱したままその場を離れた。誰かといるイルカを見ていたくなかったから。





桜の咲く前、イルカに辞令が出た。
それによりアカデミー教師としての職は一時休職ということになった。任務絡みと いうことで詳しい内容を知るものはごく僅かだった。

イルカが職員室にある自分の荷物を整理し、運び出そうとしている所へ後から声が掛かった。
「よぉ」
「アカデミーは禁煙ですよ」
「そうだったか? 春休みなんだから固いこと言うな。荷物持ちに来てやったんだからよ」
イルカの持つ荷物をひょいと持ち上げながら笑うアスマに、イルカはぺこりと頭を下げた。
「色々すいません」
「まぁ、なんだ、お前も面倒くさい性格だなぁ」
右手で箱を肩に担ぎ、左手でイルカの頭をぽんぽんと叩く。
イルカは苦笑したが、その心遣いが嬉しくてされるがままにしていた。

暖かく大きな手。願わくばその手で。

「アスマさん」
歩きながら少し俯いてイルカが口を開く。
「お願いしますね」
「あんまりお願いされたかないがな。今までで一番厄介なお守り役だよ」
「すいません…」
足を止めてしまったイルカにアスマの顔が曇る。
「大丈夫か?あー、あいつのお守りはちゃんとするからそんな顔すんな」
「はい…。お願いします。俺も…。」
「ああ。お前の心配はしねぇよ、彼女がついてるからな。さ、片付けちまおう」
歩き出したアスマにイルカもついて行く。

今まで住んでいた部屋は既に引き払ってしまった。最低限の物だけを新しい部屋へ運ぶのだ。





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う〜ん、展開が強引でしょうか?慣れていないので加減が難しいです。


(2004.02.06)






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