俺たちはお互いを。

どれだけ知っているのだろう。


‖|||‖ あなたしか見えない ‖|||‖



アカデミーの隅にある樹の上から建物を眺める。
あれからしばらくカカシは受付には顔を出していない。気配だけの自分をイルカの前に晒すのがいやだった。他の者には見えているのに自分だけが見えていないなんて。それじゃあまるで、俺の存在が幽霊みたいじゃないか。
それに三代目が当たり障りなく説明をしてはいるようだが、俺が目の前にいればイルカ本人も混乱するだろう。
報告書は毎回子供らに持たせていた。
イルカはもう家へ帰っただろうか。彼のことだから、また誰かに頼まれていつものように残業しているのかもしれない。
誰か…。
何かが引っかかった。そういえばあの時イルカと一緒にいた男は誰だったのか。イルカを追っていったようだったが、あの後イルカは家に一人でいた。
術をかけたのは、本当はその男だったのではないか。こういっては何だが、イルカがあんな術を使えると考えるより、人にかけられたと考えた方が自然な気がする。イルカの意思ではないと考えるのは自分に都合のいい解釈かもしれないが、疑ってみてもいいだろう? だがそれは何故か。イルカからカカシの存在を消したいのは誰か。
とにかく調べてみよう。

カカシは今までショックで回らなかった頭をようやく動かし始めた。





男の素性はすぐに知れた。あの時イルカといたのはクロツキという上忍だった。
戦忍であるクロツキは長期任務で里を離れていたとかで、暗部にいたカカシとは面識もなく、名前を聞いたことさえなかった。
アスマに聞くとイルカとは昔、組んで任務に出ていた時期があったらしい。その上かなりイルカを可愛がっていたという。
「ああ、覚えてるぜ。イルカが中忍になるかならないかの頃だから十五、六の頃か。よく一緒に出てたっけな。クロツキが指名して連れて歩いてたみたいだぜ。俺はあんまり気にしてなかったけどよ、あの頃はツーマンセルとかで出る時に上忍がやりやすい奴を選んでたからな。まあ、お前は単独のが多かったみたいだからなぁ、わかんねーか」
煙をぶわっと吐きながらアスマは言う。なんかムカっとくるなー。やりやすい奴ぅ?
胃の辺りがもわもわするのを感じて思わず眉を顰める。
「それって、あっちの世話とかもするワケ?」
「んなもん知るかよ。人それぞれだろ?」
「なんかすげーむかつく」
「自分はあんだけ遊んどいてか。へっ、笑っちまうな」
そう言われて、待機所のソファーにそっくり返って笑う大男を睨みつける。カカシの顔を見てアスマは笑いを納めて言った。
「少なくとも、クロツキはイルカを泣かしちゃいなかったぜ? 嬉しそうに後ろをくっついて歩いてたしな。おめぇよりはマシだろうよ。散々イルカに付きまとってモノにしたくせによ」
痛いところを突かれてカカシは唸った。アスマはイルカと昔からの馴染だから、どちらかというとイルカを守りたい側の人間だった。まあ、イルカのまわりにはそんな人間がたくさんいるのだけれど。
「イルカもなんでお前なんか相手にしたんだか」
「うるさいよ、髭」
吐き捨てるような言い方をして待機所から出た。その後つかまえたゲンマにもいろいろな話を聞いたが、アスマとほとんど同じ内容でカカシはすこぶるおもしろくなかった。が、イルカにしてみれば優しい上司ということで随分と懐いていたらしい。
つい最近任務を終わらせて里へ戻ったばかりだと言う。おそらく久しぶりに里へ帰ってきて、飲みにでも行ったのだろう。だからあんな所で会った。
可愛がっていた部下にタチの悪い虫がついているとでも思ったか。イルカが泣きついたか。
まぁ、直接聞けばいいことだとカカシは歩き出した。





「何か用かな?」
待機所近くで捕まえたクロツキは、自分たちより七つ八つ年上の、落ち着いた眼差しをした男だった。
「あんたがイルカに術をかけたのか?」
殺気を込めたカカシの言葉に少しも怯まず、クロツキは見つめ返した。
「かけていない、と言ったら?」
そう言って少し笑う。
「あの時イルカと一緒にいたのはわかってる。おかしくなる前、最後に接触したのはあんたのはずだ」
「だとしたらどうするんだい?」
はぐらかす物言いにカカシは殺気を尖らせて相手を見る。
「元に戻せ」
やれやれと首を振ってクロツキは廊下の壁にもたれ掛かる。
「それは出来ないな。忘れた方がイルカは幸せだよ」
「な…!」
「そう、あの日に…何年ぶりかな、とても久しぶりに受付で顔を合わせた。私が無事に帰ってきたのをとても喜んでくれてね、飲みに行ったんだ。色々な話をしたが、遠い噂で聞いた君の話になったら…。
寂しい眼をして笑ったよ。昔、出会ったばかりの頃と同じ眼だった。
あの頃のイルカは二親を亡くし、スリーマンセルの上忍師とも相性が良くなくてね。実力を発揮出来ずにいた。どこにいても孤独感の抜けない子供だった。火影様に頼まれてサポートに使うようになってから随分実力をつけて。中忍に上ってからは人前であんな眼をすることはなくなっていたのにね」
自分の知らないイルカの話をする男を、カカシは苦い思いで見た。
「そうだな、君には言っておいたほうがいいかな…」
クロツキはカカシを見ながら言う。
「イルカについていた上忍師の事を知っているか?」
「名前くらいは…。もう十年も前に死んだと言っていたが」
ふうん、と呟いて腕を組んだ男は、少し考えて口を開いた。
「さっき言った相性が悪い、というのは正確にいうと違うんだよ。元々の上忍師は亡くなっていてね、新しい上忍師に変っているんだ。その二人目に問題があった。イルカはいい先生だったと思い込んでいるがね」
「…どういう意味だ?」
「私は戦忍になる前はイビキの上司だった、といえば所属がわかるかな。」
「!…ああ。それとイルカ先生とどういう?」
「火影様から記憶操作をしてくれと預かった。職場柄私はそういうのが得意だったのでね」
「記憶操作?」
「そこから先は自分で調べるといい。私もそこまで優しい人間じゃないんでね」
そこまで言うと、クロツキは壁から離れ、歩き出した。術の事を聞き出せないまま、カカシはその背中を見送ってしまった。


イルカの過去。
気にならない訳がないじゃないか。




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