「では、参りますか。」
足を引っ張ろうとしている人間が何処に居るかも判らない里に愚図愚図しているより、移動しながら打ち合わせした方がまだマシな筈。
そう考えたカカシは、待ち合わせの場に着くのと同時にさっさと任地を目指す事にした。
門の前で先に待っていたイルカも同感らしく
「はい。…宜しくお願い致します。」
と、中忍らしい挨拶だけはきっちりと為した後カカシの背に続く。
勿論、任務に就く『上忍』と『部下』らしく表情を引き締めたまま。互いに必要以上の会話はしない。
組み合わせ以外は極当たり前の、里の出立風景である。
そうやって門を出たカカシは、今度は故意に足を早めてみせた。
だがそれとて。遜色ない速度でイルカは進んで見せる。
どうやら、身体能力もそれなりに在りそうだね
謎が多すぎる故、少々姑息な手に出ながら相手を図るカカシである。
アチラへの意趣返しの為にも、出来れば無傷で戻りたいのだ。
だが、任務は元中忍とは言え『一般人』の救助であり。しかもイルカの情報が…最早疑ってなど居ないのだが…確かなら、その想い人まで囚われている可能性がある。
その上忍が雇われていると在っては任務は相当厳しくなると思われた。
ならば、敵と対峙する前に味方の戦力をちゃんと把握して置きたい。
とは言え、手合わせをしている間等は無いので、取り敢えず走りながら『速さ』と『持久力』を見ている訳であった。
「はたけ上忍。」
そのカカシの意図に、気付いているのか居ないのか…
イルカはすいと速度を上げると、カカシの傍らに並んだ。そうして小声で囁いて来る。
「このまま走っていて下さい。」
現状で判っている情報を伝えます
駈けながらの言葉に、カカシは前を向いたまま僅かに頷いて意思を示す。
一応『妨害者』らしい気配は無いが、血迷った連中なら子飼の者を送り出していても不思議は無い。
ならばぼやぼやしていてアチラに付入る隙を与える訳には行かないのだ。
馬鹿とは言え、里の者。手に掛けるのは…出来るだけ…避けたかった。
「攫われた男は元はCランクを中心に回っていた忍です。敵の想定の無い相手の護衛や届け物を主として行っていました。」
体術を得意とする性質だったのですが脚に深手を負い、長く走れなくなって引退しました
「現在細工師であるだけあって、手先も器用で罠関係も得意としていたらしいですが。」
アチラとは専ら『商談の警護』で関わっていたのでその辺りは知れていないと思われます
カカシと同じく前を見たまま語られるのは、任務依頼書の資料には書かれていなかった事象。
「なら、囚われてるとは言え何か『仕掛けて』いるかも知れないね。」
飄々と応えれば、イルカも顎を引いて合意を表す。
何か『して』いるとそれはそれで厄介である。うっかりすると此方が引っ掛かる可能性があるのだ。
それに
「姿を消した恋人。彼女もアカデミーは出ています。」
下忍試験には通らず里人として暮らしていましたが 薬物と穏行に関して才のある、気の強い子だったそうです
「…それって、つまり。」
嫌な予感にちらりと視線を流せば
「はい。…攫われたのでは無く。」
自分で助けに行った可能性も在ると思われます
真顔で言い切られ…カカシは頭が痛くなった。
つまり。
『もしかしたら』仕掛けられているかも知れない罠の心配と同時に『恋人を助けに』『何処ぞに潜んで』居るかもしれない元アカデミー生をも拾って来ねばならなくなった訳である。
此れなら一緒に捕らえられている方がまだ楽かも知れない…そう思った時。
「で、彼女の家から普段彼女の愛用していた手巾を借りて参りました。洗濯前の物ですから。」
するりと言われて、思わずその横顔を凝視してしまう。
カカシの忍犬は優秀だ。中には人語を話すものまで居る。
彼等に『彼女』の探索を頼めば確かに手間は省ける。だが、カカシが言い出すまでもなく先回りしてその準備をしてあるとなれば話は別であった。
忍犬達はカカシにとっても切り札である。カカシが忍犬使いである事を知っている者は里でもそれ程多くは無いのだ。
ましてや忍犬を飼ってもいないらしいイルカが…ナルトからそう聞いている…その事を耳にしている可能性は高くない筈、なのである。
しかしやはり、今は其処を追求している暇が無い。
「判りました。『彼女』の方はウチの子達にやらせます。」
カカシが内心を隠したまま頷くと。
「お願い致します。」
と、当然のように応えがあった。その上で
「抜け忍の方はどうやら中忍クラスが二人。内一人は暗器使いらしいです。」
そう言えば先頃、アチラの商売敵の一人が頓死しましたっけ
何気なく言われる言葉。だが内容は重い。
「暗器、ね。」
憶え置く事にする。どんな手に出られても反応する自信はあるが、予備知識の有る無しで心構えが違って来る。
そう言う意味では実に在り難い忠告だ。
「罠の方は俺が何とか出来ると思います。」
得意分野ですから
淡々と付け加えられた言葉に三度振り返れば、変わらず表情の無い横顔。
そう言えば、と頭を巡らせる。
年少組相手に総合教育している如何にも『先生』な姿ばかりが印象に残っているのでつい、忘れていたが。
この人のアカデミーでの専任教科は『罠』と『薬学』だった。つまり、下忍直前の子等にその知識を授けられる程の知識と技術を持ち合わせているのである。
「幸い『彼』はがっしりした性質ですが、縦横とも俺より少ないみたいですし。」
この状況では減量している可能性はあっても、加重はしていないでしょう
イルカの台詞は、既に互いの役割を決定している。つまり、救出はイルカでその為の外敵駆除がカカシの役割と言う訳だ。
カカシとてその心積もりであったのだが、先に決め付けられるのも妙に癪に障って。
カカシは覆面の下で態とらしく口を尖らせてみせた。
「何だか、もう全て決まっちゃってるみたいですねぇ。」
嫌味を込めた口調。なのにイルカはきょとんとして
「何処か問題がありますか?」
と訊ねて来る。
真っ直ぐに向けられた瞳には、上忍に指示を出していると言う優越感や諜報で上を行った事への鼻にかけた様子も無く。
純粋に効率を考えた意見だった事を感じさせた。だから、カカシもつい苦笑してしまう。
「いいえ。他には何か?」
考える間でもなく、今は意地を張って居る場合では無いのだ。
自分と相手と。そして救護対象『達』の安全を慮るのならばイルカの言葉に従うべきであった。
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