目的地傍まで来て、カカシは忍犬達を口寄せした。
優秀なカカシの犬達はすぐに四方へと散って行く。此れで本人もしくは手掛かりを発見したらすぐに教えに来てくれる筈である。

 と

「この間に此方を検討しましょう。」
 巻物入れから取り出した紙を広げながら、イルカが言った。
怪訝に思いつつカカシが覗き込むと

「…アンタ、コレどうしたの。」
 声に滲むのは不信感。
何故ならそれは、目的の屋敷の見取り図だったのである。『上』の情報操作が入っていたのか、正規に渡された任務資料の中には加えられていなかった、代物。
そもそもこの任務、カカシ達に不審を抱かせない為か任務を受けさせられてから顔合わせ、出発までが随分と短かったのである。
急がねば囚われた男が危ないから、と尤もらしく理由を付けられて文句は言えなかったのだが。
 此れ迄の情報と言い、この図面と言い。イルカはどう遣って手に入れたと言うのだろうか。
改めて不審を抱いたカカシである。

 それに。

「ああ。最近、此処の任務を受け持った人に頼んで書いて貰いました。」
 受付ですからすぐ判るんですよ 
 あっさりとイルカはそう語った。

「半月程前、と言ってましたからほぼ拉致の直前ですね。この騒ぎを起こしてから人手を入れて改装するとは思えませんし、信用性は高いと思います。」
 それに一応、もっと前に受けた人達にも眼を通して貰いました

 特に何の感慨も見せず言ってのけるイルカに、カカシの疑問は益々不審は膨らんだのだが…今は飲み込むしかない。
無駄な時間は使っていられないのだ。兎に角、目の前の『任務』を片付けるべく丁寧に記された図面を頭に叩き込む。
 すると、カカシが覚え終わった頃合いを見計らって

「此方も見て置いていただけますか?」
とイルカはまたもや紙面を取り出した。其処に在ったのは一つの顔…眼に険の在る、だが無頼漢ではなさそうな男のそれである。

「此れは?」
「屋敷の馬鹿『息子』の顔です。」
 表情は変えぬまま、爽やかにイルカが言い放った。

「どうも腕に覚えがあるらしく、在中の忍に頻りと手合わせを願って来たそうです。」
 尤も、護身の為とか本心から強くなりたいからではなく
「忍を倒した、と周囲に吹聴したい性質のようですけれど。」
「…あ〜〜…」
 明快な声音できっぱり言われ、カカシは思わず頭を掻いた。
偶に居るのだ、そんな馬鹿が。
確かに体格もそこそこある様だし、何より土地の権力者の息子に本気でやり合う人間もそうは居ないだろう。
増長に増長を重ねた結果、本気で『訓練を受けた』『荒事の専門家』とやり合えると過信してしまった…愚か者。だが、それでも屋敷の息子。

「…来ますかね?」
 カカシが問えば。

「来るでしょう。」
 断言するイルカである。
深い溜息をカカシが付いた処に、バックンが『彼女』の発見を告げに来た。

 そして

 発見された娘は…イルカ自身は教えた事はなかったものの…イルカが新前教師の頃まだアカデミーに居た『子』であった。
ので、当然イルカの事は憶えていて。イルカの説得に、渋々ながらも頷いた。
それでも先に里に帰るとは言わない娘を、仕方無く離れた場に待機させる事にする。
イルカが結界を張って気配断ちをし、カカシは忍犬を一匹付けて置く事にした。
実を言うとイルカの結界はこの犬の方に反応している。つまり犬が解除しようとしなければ結界は消えず…娘も外には出られないのだ。
暴走防止用なのである。意識を奪って置いても良いのだが、万が一の場合自力で動けないのでは拙かろうとこの様な手を使ったのだ。
付けた忍犬は大柄なヤツなので、イザとなったら娘を背負って逃げる事も可能だろう。
此れで少なくとも屋敷から人二人抱えて出る羽目にだけは陥らずに済みそうであった。





「では。」
 屈み込んだイルカが呟いて印を組む。するとふわりと風が起こり…足元に置かれていた粉末がさらさらと風に乗って流れ始めた。

 へぇ…

 様子を見ながら、カカシは密かに呟いた。
今散布されつつあるのは睡眠薬の一種である。忍には効き難い極軽い物だが相手を熟睡させるし、何より痕跡が残らない代物だ。
それをイルカは屋敷の隅々まで風に依って運んでいるのである。

 今回の任務、最大の難点は『家人を傷付けてはならない』事…なのである。
実はこの屋敷の主、火の大名の所謂落し胤らしいのだ。因って、家人への手出しは禁じられていた。
 が。
 だからと言って里の威信の為にもしっかりと釘は刺さねばならず。
…家人『以外』は。見せしめに相応しいだけの『対処』をする事が求められている。
しかし、それを為すならばどうしても『密に処す』訳には行かなくなる訳で。

『家人は…屋敷内の方々は俺が眠らせましょう。』
 と、作戦会議中イルカはそう進言して来たのだ。

『雇われ共は屋敷周りの警護か、与えられた部屋にいる筈です。』
 素性の良くない者達を屋敷中にうろうろさせはしないでしょうから
『なら、其処以外に薬を使えば家人に邪魔をされずに済む筈です。』

 自信ある物言いに、お手並み拝見…と少し意地悪い気持ちも篭めて、カカシは合意したのだが。成る程、自分から言い出すだけの事は在った。
チャクラを殆ど感じさせない風遁は屋敷の空気を揺るがす事無く薬物を広げて行き、多分家人は勿論雇われた忍にさえも存在を気付かせていないだろう。
図面を見ているとは言え、屋敷の構造だけでなくこの辺の気象まで理解していなければ出来ないだろう的確な術使いである。
 罠と薬
『師』として里に選ばれた者の力量を感じさせるそれにカカシは感嘆する。
此れならば…屋敷周りが破落戸共と一緒に居る可能性の高い馬鹿以外の…家人は、何一つ気付く事無く眠り続けるだろう。

 なれば、
此処からはカカシの独擅場であった。




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