■   死者の書(前編)  ■














(※このお話は「夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場」様の『夜と霧』と設定を同じくされています。
 裏ページ所在ですが、可能な方は是非そちらを先にお読み下さい。)


























愛情からなされることは、いつも善悪の彼岸でおこる。


ニーチェの『善悪の彼岸』の有名な一節だ。
ニーチェは神を殺した挙げ句に、超人の出現を論じたりしてファシズム思想の先駆と見られる向きも 無い訳でも無いが(それでもハイデッカーよりは明かにマシだろう)、俺は寧ろこの一節にニーチェという男の 誠実さを感じる。
少なくとも彼は愛という名の下に行われる人類の幾万もの愚行を知っていたのであり、 それを善悪で裁くことの無意味さをも知っていた。その上で最も純然たる愛を追求したのだ。
彼の言うニヒリズムは一般的に流通しているイメージとは違い、ずっと真摯で情熱的で求道的だ。
愛という体裁のいい名目の元に人殺しをする商売の俺にとってそんな彼の思想は酷く心地よい。

彼が最終的に発狂した、という事実も含めて大いに気に入っている。






「又、ニーチェを読んでるのかよ。本当好きだなあ」


オビトが呆れたように俺の手元を覗き込みながら大袈裟なため息をついた。


「いいでショ?戦場でニーチェを読むなんて、これぞ真に洗練された人間のする大いなる皮肉だよ」

「何処が洗練だ。悪趣味の間違いだろうが。いつものイチャパラでも読んでた方がずっと真っ当な人間性があるぜ。 ほんとナントカと紙一重だよな、お前」

「哲学者は常に戦場で思索するものなんだよ。現にヴィトンゲンシュタインは・・・」

「待て、誰か来た」




はたして、俺のテントをめくって髭が現れた。




「おい、ノックくらいしろよ」

「うるせえ。ホムラの爺様がお前を呼んでるぜ。任務だとよ」

「ちえ。短い休息だったな」




そして、俺はニーチェを寝袋に置いてオビトと一緒に自分のテントを出た。
水戸門ホムラは里の言わずと知れた里の重鎮の一人であり、今度の遠征の最高司令官だ。
暗部は火影の直轄だが、現戦線では火影より暗部の指揮権を委任されている。
つまり現在の俺は、あの眼鏡の爺さんが何処何処へ行って誰彼を殺せ、と命じられれば 何処何処へ行って誰彼かまわず殺さなければならない。
しかし、今時期俺を単独任務で呼び出すとは珍しい。
泥沼化するこの南の国の現在の戦局において、同盟国である木の葉はむしろ如何に最もらしい 大義名分を見つけて部隊を引き上げるか、ということだけに頭を悩ませているはずだ。
これは高度に政治的な駆け引きの問題であって、俺のような鉄砲玉の関知する所ではない。
それとも、何か戦局に大きな変化でもあったか?

ともかくも、俺はつかの間だった読書の時間を惜しんだ。当分、又本は読めまい。








****








ホムラの居るテント、つまり本陣に入って我が目を疑った。

ホムラの机の前に気おつけの姿勢で立ち、俺に振り返ってにっこりと笑った男が居た。

その笑顔に俺は心臓が止まるかと思った。




「お久しぶりです。はたけ上忍」

「イルカ!!!!!?あんたか?!!」




なんとイルカが其処に居た。三ヶ月かそこらぶりのイルカとの再会だった。
喜びのあまり自分でもよくわからない奇声を上げて、イルカの身体を抱き締める。
俺の胸はドキドキして破裂しそうだった。
興奮のあまり、身体中の血が逆流して目眩がした。
だって、イルカだ。あのイルカだ。ずっと恋していたイルカに又会えた!
くりくりとした柴犬のような黒目がちの瞳に、鼻梁に真横一文字に走る傷、尻尾のように揺れる髪、抱き心地のよい身体、何も変わってない。
瞬時に三ヶ月前のイルカと過ごした熱い夜をも一気に甦ってきて、下半身も滾って脈打ってくる。
ホムラの爺さんすら居なかったら有無を言わせずイルカを瞬時にこの場で押し倒して、キスして、 貫いて、あんあんヨがらせた事必至だ。

「はたけ上忍、離してください、困ります。ここではダメです」なんてかわいく抵抗するイルカを更に腕に 閉じこめるように抱き締める俺にオビトはあっちゃーーーっと言いながら頭を抱え、ホムラの爺さんは いい加減にせんかい、という意味の咳払いをした。

「・・・もおおーーー仕方ないなぁ、また、後でたっぷりとね、イルカちゃん」

俺はイルカの手にちゅ、とキスしてから彼の身体を離した。




「お前達、知り合いだったのか?」

「ええ、北の前線で一度。例のバカの暗殺の時ですよ」

「機密事項を易々と口にするな、バカもんが」

「所で、どうしてこの場にうみのイルカ中忍が居るんです?もちろんすっごく嬉しいですけど」

「儂が呼んだからにきまっとるだろう。お前達にはこれから二人である任務に就いてもらう」

「うみの中忍と?俺単独じゃなくて?じゃ、暗殺じゃないんですか?」

「お前は大人しく儂の言うことが聞けんのか。暗殺に決まっておろう。お前の使い道なぞそれしかない」

「暗殺?イルカと?また誰を?俺をのりこませる程のヤツなんですか?そんな大物、まだ敵方に居ましたっけ?」

「だから大人しく話を聞けと言っているであろうが!今回のターゲットは敵ではない、抜け忍じゃ」

「又誰か抜けたんですか?で、この俺を追い忍に仕立てる程の大物とは誰です?」

「幻術使いのタチバナじゃ。おぬしもレクチャーを受けたことがあろう」

「!まさかあのタチバナ教官?!あの人が抜けたんですか?!」

「行方をくらませてもう一年になる。お前を選んだ理由はタチバナの幻術に対抗できるのはお前位しかおらんからだ」





タチバナ上忍は俺も若い頃、幻術のレクチャーを受けたことのある幻術のエキスパートだ。
確か歳は50に届くか届かないかで、禿頭に恰幅のよい体格という外見に温厚な性格もあって 木の葉忍者の信望も厚い。
30代後半にはほぼ現役を引退する忍社会の中でも未だに第一線に従事していることも 若手の尊敬を集めているたたき上げ中のたたき上げ、筋金入りの忍だ。

そのタチバナ上忍が抜けた?




「信じられません。・・・あのタチバナ上忍が抜けたなんて」

「事実じゃ。先日式を飛ばしてきよった。戻るつもりはないとのことだ」

「ふーーーん・・・・見逃すつもりはないんですか?里にとっても功労者でしょう? ・・・これまでだって見て見ぬふりをした忍者がいないワケでもないでしょう。引退とみなせば」

「それはできん。タチバナはただ抜けたワケではない」

「何かやらかしたんですか?」

「タチバナは地域住民を幻術にかけて王国をつくり、その王と名乗っている。 ・・・・・タチバナは狂ったのだ」

「王国?王、だって・・・・?」





あまりにも現実離れした話に二の句が継げない。
この戦場で、王国?
幻術の王国?
幻の国の王様になったって?
あのタチバナが?




「お前の任務は狂ったタチバナの暗殺だ。タチバナは地域住民に幻術を指南しているという 情報もある。忍ではなく、一般人を、だ。これが事実とすれば木の葉忍術の存亡に関わる大事 となりかねん。その事実が確認された時はかまわん、タチバナの言う王国の住人全員の殲滅を命じる」

「その王国とやらの住人は何人ほど居るんです?」

「おおよそ、200。女子どもを含めてだ」

「その全員が幻術の使い手とするなら俺でも少々やっかいですね・・・」

「そう思うて、お前に助手をわざわざ前線から呼んでやったのだ」

「それがイルカ中忍というワケですか?でも本人の前で失礼ですが、俺の助手を勤めるなら一介の中忍では少々懸念が・・・」

「その点は心配せんでいい。うみの中忍にはある『特殊技能』がある」

「特殊技能?イルカ中忍にですか?」

「うみのイルカ中忍にはあらゆる『幻術』にかからんという能力がある」








今度こそ本当に驚く俺に、イルカがにっこりと自信ありげな微笑を投げてきた。












****












「・・・なぁーーーんか、また人数増えてない?あの幽霊さん達?」

「そうですか?カカシさんもまだオビトさんとご一緒のようですね。今夜もテントを追い出して申し訳ないです」




その後、俺はイルカを自分のテントに引きずり込んで思うままに散々犯した。
イルカは本当に可愛らしく悲鳴を上げて、散々ヨがって、何度も失神して、それでも俺を締め付けて 離さなくて、本当に最高にキモチよかった。
イルカの悲鳴は今夜木の葉の陣営中に響き渡ったことだろうが知った事じゃない。
イルカがもうダメです、死にます、これ以上はホント無理、と泣き出してそれでも止まらずに 更に又3回はイカせた後、漸く満足した俺はドロドロユルユルになったイルカの穴から自身を抜いた。
例の如く、日がとっぷりと落ちてからはイルカに取り憑いている忍の幽霊達が現れ、俺達の営みを じっと見つめていたが、もはや慣れっことなった俺にはその15人ほどのギャラリーが居ることで代えって興奮の材料になった位だった。
今度は壊れるベットも無かったし。
そしてぐったりとしたイルカを抱きながら、うつらうつらと眠そうにしているイルカの耳元に睦言を囁き続ける。
又、イルカを抱けるなんて、本当嬉しくって今夜は眠れそうにない。






「・・・ねえ、イルカ。あれから俺、あんたが忘れられなくって誰も抱いてないいんだよ」

「・・・ふふふ、またまた・・・嘘でも嬉しいですけどね、カカシさん」

「ああ、信じてないの?酷いなあ〜〜本当だって!ねえー、イルカも俺が忘れられなかった?他の男に抱かれても 俺のこと考えた?」

「ええ、考えましたよ。他の男に抱かれても、アナタのことばかり・・・・」

「嬉しいなぁ・・・本当嬉しい。あんたと任務なんて最高だよ。こんな楽しい人殺しはないね。 でも驚いたよ。あんたに幻術の才能があるとはね、幻術に耐性があるって本当なの? あんた幻術使いだったんだ?」

「いや、俺は幻術使いではありません。普通幻術に耐性のある子は幻術使いに養成されますが、 俺は術をかける方の才は全く無いんです。でも何故かかけられる方には断然強くて。 他の能力としてはまったく平々凡々な平均的な中忍ですよ」

「でも忍としては凄い強みだよね。それで生き残ってこれたの?」

「まあ、そうとも言えますね。戦場では何度かこの能力のお陰で助かったこともあります。 それに『彼ら』も何度か助けてくれたことがありますしね。地雷の位置とか教えてくれたこともあるんですよ」

「へえー、そりゃ便利だ。ただ祟ってるワケじゃないいだ。あんたを守ってるんだね」

「本当ありがたいごとです。俺みたいな死神を・・・・・」

「だからあんたに恋する男にとっちゃあんたは天使だって言ってるじゃない。 にしても幻術が効かないなんて変わった体質だね?ご両親にもそういう能力が? もしかして血系限界?」

「そんな大層なものではないですよ。・・・でも子どもの頃から割と不思議なことがよく起こってましたけどね」

「ふーーん・・・どんな事があったの?寝物語に何か喋ってよ」

「俺が子どもの頃の事ですけどね、家の庭に父が排水を捨てる穴を掘ったことがあったんですよ。 最初はただの穴だったんですが、南向きでしたし、穴の底にいつしか綺麗な青草がふさふさと生えるようになりましてね。 またその穴のすぐ横に柳の木は生えていたものでしたから、こう柳の枝がカーテンのように 上手い具合にその穴を柔らかく隠して。木漏れ日なんかがきらめいちゃって。なんか凄く居心地のよさそうな空間になってたんですよ。
ソコにね、いつしか猫がね、何匹もやってきて死ぬんですよ。
ふと、見ると、いつも猫が眠るように死んでいる。
本当に草のベットで気持ちよさそうに死んでいるんですよ。
父も母も猫が嫌いで、ああ、また死んでるよ、と嫌がったんですけどね、俺は何かその光景が誇らしかった。 猫たちの間で評判にでもなってたんじゃないでしょうかね?あそこの庭はいい死に場所だって。 その位、いっぱい猫が死んでた。シャムとかペルシャとか高そうな猫も死んでましたよ」

「へえーー、イルカの家って猫の死の谷だったんだ?でもちょっといい話だね。 猫って死ぬ前に姿を消す、というけれどイルカの家みたいな所を選んで死ぬんだね」

「それ以来ずっと死人とか死にご縁があるというか・・・こういう言い方もヘンかもしれませんけどね」

「でもイルカの家を選んで死ぬ猫のキモチわかるなぁ〜。なんか本当に安らかに逝けそうだものね。 でもそれと幻術の才能とどういう関係が?」

「関係なんて全然無いですよ、でも、ほら、俺ってこんなんでしょう? ご存じの通り幻術の使用例として最もポピュラーなのがトラップ系ですが・・・・まあ、いつのまにか 迷い込む、というアレですけども、幻術空間には幽霊が居ないのですぐこれは非現実だ、と わかるんですよ。ただそれだけの話です」

「あはは!そりゃいいね!傑作だ!幽霊の居る方が現実か!ほんと、あんたって最高だよ、イルカ」








そうして俺達はシュールな幽霊達の見守る中で何十回目になるかわからない情熱的なキスをしてから、 今度こそ明日に備えて眠りについた。




















中編に続く




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