魂揺らし 6

その陣に配されたとき、イルカは心の内で三代目に毒づいた。
アカデミーの教師になる為の研修と引き換えに出された中忍任務で、上司にあたる忍を確認した途端に苦いものが走ったのだ。

なんであの人が上官なんだよ…。

三代目だって、俺がカカシさんに嫌われてるって知ってる筈なのに。
もちろん中忍として戦地に赴く自分の直接の上官はカカシではないが、今回正規部隊の任務は暗部のサポートのようなものだった。事実上正規部隊の者は上忍であろうと暗部に逆らう事は出来ない。暗部は直接火影に選ばれた者たちだから、里の選抜より一歩高い位置にあるのだ。
イルカは自身が暗部に属する為、暗部の中にカカシがいることを事前に知り得た。イビキから奴には気をつけろと言われたのだ。
『魂揺らし』であることが他にバレる様な事はない筈だが、写輪眼のカカシという男がどれだけ強い、いや危険なのかは上層部であるほど理解している。里の懐刀であり、抜けることでもあれば最も恐ろしい男。それがイルカに逆恨みしているとあれば、イビキとしては心配でたまらないのだ、と。
イルカはそれをくすぐったいような面映いような気持ちで聞いたが、もう子供じゃないんですから、と笑った。





任地に着いてしばらくは慌しかったが、ここしばらくは膠着状態が続いていた。陣の中にも焦りの色と多少の緩みが出始めている。暗部からは最低限の指示しかしてこないので、正規部隊の者たちには苛立ちが滲んでいた。力の差という大きな枷がありそれを断ち切ることが出来ないからには、それは必然的に正規部隊のなかでの軋轢になる。上忍が気にくわない中忍に手を上げることもしばしばあった。

そんな中でもイルカは従来の人当たりの良さからあまりその手の扱いをうけていなかった。それが油断だったのかもしれない。
あの後一度もカカシに会っていなかったイルカは、それでも一度会って礼を言いたいと思っていた。が、自分を嫌う者の前に顔を出すのはどうだろうかと悩みもしたのだ。
多分、自分はカカシの強さに惹かれている。
自分の事は自分で守ると言う当たり前のことを、当たり前にしている男。その上仲間は絶対に見捨てない。
自分の持ち得ないものを手にしている男に。

そんな事を考えながら、無意識のうちにイルカは陣から少し外れた所まで出てしまった。

しまった。

そう思った時にはもう二人の上忍に挟まれていた。
「こんな所に一人でいるってことは、誰かを誘ってた、って事だよな」
「そうそう。中忍風情がねぇ。まあ、俺たちは優しいから悪いようにはしないけどな」
「結構可愛い顔してるじゃないか。髪下ろせば中々イケルかも」
にやにやと笑う顔に嫌な汗が滲む。冗談じゃない。
隙をみて逃げ出そうとするが、こんな奴らでも上忍で、イルカは少しずつ森の奥に追い詰められていく。
「くっ、やめろ! 離せ…ッ!」
腕をギリギリとねじられて木に押し付けられる。闇雲に暴れると平手で頬を張られたが、それだけでも耳鳴りがした。悔しいが格上相手ではこれしか抵抗できないのかと、イルカは臍をかんだ。まさか得物を手にする訳にもいかない。
半ばぼうっとした頭で、それでも暴れていると、一人がクナイを手にベストを裂こうとしてきた。
「いやだ…ッ!」
イルカが叫んで身体を捩った時に、恐ろしい殺気が一帯に溢れた。
それは上忍さえ動きを止めるもので。
「カ、カカシ…」
そこに立っていたのは銀髪の暗部。月明かりの下、面をつけていてもその髪の色とチャクラでそれが誰なのかが嫌でもわかる。
「何やってんの」
「いや、その、こいつはほら、中忍だし…」
「こ、こいつが誘うようにしてたから、な?」
「行け。邪魔だ」
カカシの眼光に二人の身体がビクリと揺れる。
「な、なんだよ…。俺たちは…」
「今すぐここから去れッ!」
「ヒイ…ッ」
毛穴が開くような殺気に当てられて、二人は我先にと転がるようにその場から逃げ出した。
残されたイルカはその場にがくりと頽れた。耳鳴りがおさまりきらない上、膝と腰に力が入らず、うまく立ち上がれない。
荒い息をつくイルカの抗議も聞かず、その身体を軽がると肩に担いで、カカシは自分の天幕に向かった。





カカシのものであろう天幕に連れ込まれてどさりと寝床に落とされたイルカは、むきになってカカシを見上げた。そのイルカを見下ろしてカカシが口を開く。

「なんであんなとこウロウロしてた訳?」

冷えた眼で言われて唇を噛む。あんたが気になったなんて口が裂けても言える訳がない。
イルカは黙って俯いた。
それを見てカカシは舌打ちをする。イルカがびくりと震えた。
「…ああ、もう!」
カカシがイルカの肩を掴んで揺らした。
「ねぇ、ここは戦場なんだよ? 上忍連中は皆ビリビリしてる。あんたみたいな中忍がふらふらしてたら格好の餌食だっていうのがワカンないかなぁ?」
「そっ、それは…」
「だから俺はあんたを連れて行くのに反対したんだ。それなのにあのじじいときたら! いいから連れて行けの一点張りで人員変更させないし!」
詰まるカカシに返す言葉も無く、只々悲しい気持ちが溢れてくる。隊員として連れて行くのもイヤなほど嫌われてたのか…。
知らぬうちに視界が歪んだ。
馬鹿だ、俺。この人の前でみっともなく涙なんか。
顔を擦ろうとして上げた腕をカカシに掴まれる。涙がぱたりと落ちた。
「…すみません。離して下さい。私の行動が軽率でした。出来るだけ早く陣を離れられるよう、火影様に頼んでみますから…」

「違う…」

カカシが呟く。
「違うんだ…」
腕を掴んだ手が緩む。
「泣かないで…」
その手がイルカの頬を拭った。
「え…」
思わず顔を上げた瞬間、眼に入ったのは面も口布もない素顔だった。
とっさに反応できず目を瞠ったイルカに、そっとカカシの薄い唇が押し当てられて離れる。
自分より幾分低い体温を感じながら、イルカはカカシの顔を見た。
「ねえ」
薄暗いテントの中でも感じられる綺麗な整った顔。その色違いの双眸がイルカの瞳を覗き込んでいた。

「俺は、アンタの…、イルカのことが好きなんだよ…」
強い意志を感じさせる眼が、自分の眼を射抜いている。再び唇が合わされ、カカシはそのままイルカの開いた唇から舌を差し入れて、ゆっくりと口腔を探り始めた。


(04.06.05)
変なトコで終わってしまった。

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