魂揺らし 5

獣面をつけた忍が森のなかを駆けている。
一つ、二つ、三つ…、四つの影。

後ろ髪が風を切り、びゅうびゅうと耳に響くその音が、己が暗部として跳んでいるとイルカに自覚させる。
前を行く暗部が現場に近付いたことを知らせてくるのに目を凝らせば、森の一角が煙っていた。その先の地面が抉れている周辺を見渡せば辺りに肉片が飛び散っている。

「これは…」
「思ったより酷いな」

一人がイルカを見遣って、出来るかと問うてきた。イルカはもう少し状態が良くないと、と面の下で眉を顰める。さすがに欠片が相手では遣り難い。相手の質量が少ないほどこちらの消耗するチャクラの量が増える。しかも今回はそれを火影のところまで飛ばさなくてはならない。
イルカが思案しているといつの間にか近付いた銀髪の暗部が、目の前にずいっと人の頭部を突き出してきた。
一瞬ぎょっとしたイルカに、
「重いからだいぶ向こうに飛ばされてたみたい」
と言って、どうするかと尋ねてきた。どうやら探してきてくれたらしい。

「そこに…、下ろして離れて頂けますか」
イルカは足元を指して答えた。カカシは頭部を地面に置くと少し下がった。多少遣り難いなとは思ったが、早くしなければならないので出来るだけ気にしないように務めて、そこに座った。
イルカはそっと頭部に触れてゆるりと撫で、チャクラを練り始めた。
その身体から不思議なチャクラが立ち上るのをカカシたちは黙って見ていた。
誰もが声も発せられずにいるそれは僅かな時間で終わり、イルカの身体から浮き上がり纏わりつき、ゆらりとチャクラの塊が形を変えながら漂う。素早く印を切るとそのチャクラはイルカの掌に集まり、白い小鳥に変わった。
人差し指にとまらせた小鳥はイルカに向かってチッと一声鳴いてから飛び立った。火影のところまで一直線に飛んでいくのだ。

「…終わりました」

イルカが言うと、息を吐いて動きを解いた他の暗部も手伝って残りの処理を始めるが、カカシだけは辺りを窺ったまま動かない。
そして。
一瞬大気が揺らいだと思うと、敵が現れた。逃げずにひそんでいたそれは抜け忍とは言え小さな集団をつくっていた。恐らく二十人程の人数がいると察せられた。
暗部の一人がイルカの背後につく。イルカも消耗したチャクラを掻き寄せるようにして気配を辿ることに集中する。

さすがに敵に対峙しているときのカカシの殺気は凄かった。それだけでなく目にも留まらぬ速さであっという間に五人仕留めた。対して敵の数人が印を組む。
「土遁・蔓延牙!」
「旋風掌飛礫!」
続けざまに術が放たれ、地面から無数の土で出来た蔓がのびてカカシに絡まり、風の飛礫が飛ばされる。その瞬間を狙って残りの敵忍が飛び掛っていく。カカシがそれをかわすものの、イルカの後にいた暗部が煽りを食って足元から逆さ吊りに引かれた。助けようと手を貸すイルカも左足を取られてしまう。
「ち!」
風の飛礫が腕を掠めるのも気にせず、イルカは背中から抜いた忍刀にチャクラを流して蔦を切り、そのまま飛んで暗部に絡まるものを薙ぎ払う。飛礫を刀身で弾き飛ばし、直後に印を組もうとしていた忍に向かって切り込んだ。自由になった暗部と連携して一人二人と倒していく。
「へえ…」
それを見て取ったカカシは、手から雷光を生じて術者を引き裂き、続けて駆け抜けざまに何人かを吹き飛ばした。それから抜刀して次々に血飛沫をあげていく。
銀色が舞う姿を、イルカは自らも刀を振るいながら視界に入れた。
――凄い…!
その圧倒的な強さと速さ、美しさに絶句する。

あんな…。あんな風になれたら…。

結局、カカシは暗部と共に残りの者をあっという間に屠ってのけた。

「残りはいないようだな」
「ああ、もう気配は感じない」
暗部とカカシが話しているのを聞きながら、イルカがふらつく。
一瞬で駆け寄ったカカシに「大丈夫ですから」と答えたが、カカシは暗部に「この人連れて先に帰るよ」と言い放った。

「あの…っ、ほんとに大丈夫ですから…」
「青い顔して何言ってんの。チャクラ切れでしょ」
「…すいません」
軽々とイルカを抱えたままカカシは木の上を飛んでいく。
ふ、とカカシはイルカの腕を見て、抱えた指先で流れた血を辿る。
「ま、あれ見ちゃったらしょうがないかなーっ、と思うけど」
「え?」
「あれ。あんな風にチャクラが纏まるんだねー」
「あ…、はい…」
イルカは腕の中で俯いたままだ。今まで散々苛めちゃったしねえ、とカカシは胸の中で呟き、気になっていた事を尋ねた。
「アンタ結構使い手だよねえ。それでもアンタに暗部が付くのって…」
びゅうびゅうと風を切る中、しばらく黙っていたイルカが口を開く。
「いざという時、俺を処理する為…です」
「ふう、ん」
自分で聞いておいてカカシは気のない返事をする。それきりどちらも黙ったまま火影の屋敷に帰った。





待っていた火影に詳細を報告する。イルカは着いてすぐにイビキが連れて行ってしまった。
「過保護なのか冷酷なのかわかりませんねえ」
「お主には言われたくないがな」
「そりゃどうも。まあねえ、俺も、もっと使えない奴かと思ってましたからねー」
「あれの腕が確かなのはわしもわかっとるし、我が子のようにも思うておる。じゃがそれと里の意向は別じゃ。あれはそれを弁えているのよ。だからあれにちょっかいをかけるのはやめよと言うたじゃろう」
「はあ、そうでしたかね」
「自分が恥ずかしくなるじゃろ?」
したり顔の里長にカカシは嫌そうに顔を顰めた。だが気分は悪くない。カカシは指先についたイルカの血をぺろりと舐めた。


一方のイルカはいつもの部屋で寝かされていた。
「イビキさん」
「何だ?」
「…弱いってイヤですね」
「おまえは弱くはないだろう、イルカ?」
「じゅうぶん弱い、ですよ。チャクラ切れなんてしちゃって。なんていうか…、忍として恥ずかしいですよ…」
「あいつが居たからか」
「っ、そんなんじゃありません。そうじゃなくて…」
「いいから寝ろ。そのままで眠れるか? 香を焚いたほうがいいか?」
「大丈夫です。眠れます」
目を閉じたイルカの顔をイビキはしばし見つめた。子供の頃から見てきた顔だが、今は青白く痛々しい。本当は陽だまりのような笑顔の持ち主なのに、自分たちはそれを押さえ込んでしまった。それが里に仕える者の使命とはいえ、忍とは…。
詮無い思考に首を振って、イビキは部屋を後にした。


(04.06.03)
戦闘シーンなんてどうしたらいいんだか。

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