魂揺らし 4

『魂揺らし』という者がいるのは知っていた。
九尾が出たあの時、四代目の傍にいた者のなかにその名を持つ者がいた。自分は子供と分類されて、先生の傍近くに居る事を許されずにオビトたちと後方へ下がらされた。
結局、封印術の為に居なくなってしまった先生。
里を守るために居なくなってしまった先生。

その先生の記憶がそっくり三代目に渡されたという噂を聞いたのは何時だったか。

先生の記憶が盗まれたような気がした。

ナルトの母親以外にあの場にいた女。先生の傍にいたあの女。騒ぎの中ではっきりとは見えなかったが、黒目黒髪で、隣に暗部がひとり付いていた。あれがそうに違いないと、密かに調べた。
ふたりとも結局あの時に死んだらしいが、その技を受け継ぐ者が居ることを知った。随分と三代目に可愛がられているらしく、なかなか尻尾を掴む事が出来なかったが、おそらくあの時見たふたりの子供なのだろう。
暗部の姿で髪を肩に垂らしている時はそうでもなかったが、受付にいる中忍の姿を初めて見た時に、あの女に似ている、と思った。





その日も暗部の任務を終え、報告をしようと火影のところへ向かっていたら、その屋敷の廊下であの中忍の気配を感じ取った。何やら疲れた不健康そうなチャクラだったが。

「ねえ」
声をかけた途端、怯んだのがわかった。
「ねえ、アンタだよね」
少しずつ近寄りながら続ける。

「『魂揺らし』」

「…っ!」

見も知らぬ男に突然告げられた男は面のなかで瞠目したようだ。一瞬の気配を察してカカシは薄く笑った。
なんでこんな奴が。
男が無言のままでいるのに苛立ってカカシは勝手に喋りだす。
「ふうん。何で隠すかな。アンタも火影様も」
ぺたりぺたりと、わざと足音をたてて近づく。
「別にいいじゃない、隠さなくたって」
「ああ、でも知られると利用されたりとかあるのかなぁ」
「でもさあ、自分の身は自分で守んないとねぇ」
クツクツと巫山戯て笑いながら話しかける。こいつは暗部の癖に自分を守れない。いつも後に他の暗部を数人貼り付けている。
守られてる暗部ってなんだよ。笑っちゃうよね。

「何をしておる」

どうしてやろうかと思っていると火影と数人の暗部が来た。
あーあ、まただよ。
口を開こうとした途端に件の男が崩れ落ちた。暗部の後からイビキが出てきて男を抱え上げると、黒髪がざらりと垂れた。流れる髪が漆黒の闇を思わせて、何故か目が離せなかった。
イビキは火影に目配せしてからカカシに見向きもせずにそのまま奥へと消えていった。

「へえ。お姫様ってわけだ」
カカシが軽口を叩くと火影がギロリと睨みつけた。
「お主は何をしにきたんじゃ」
「報告ですよ」
「だったら遊んどらんでわしのところへこい」
「はいはい。今から行くトコだったんですけどね。なんかおもしろそうな奴がいたんで」
火影はカカシをじっと見てから言った。
「あれにちょっかいを出すな。あれの親はわしの命で任務を全うしただけだからのう。四代目の事を思っての逆恨みならやめておけ。筋違いじゃ。お主が恨むならわしじゃろう」
静かな目で言われて、カカシは不穏なチャクラを納めた。
三代目の言っている事はわかる。
わかってはいるが。





深夜の受付所で、またあの男を見つけた。自分があの時の相手だとは気付いていないようだったので、とりあえず何時も通り書類を出す。
しかし受理した男の前から、カカシは立ち去らなかった。
「あの、何か?」
不思議そうに問いかける男にに少し腰を屈めて囁く。
「自分の身、守れてる?」
弾かれたように肩を揺らした男の目の前で、カカシは自分の面を外して見せた。
「あ、暗部が顔を晒すなんて…」
一瞬、顔を凝視してから慌てて顔を伏せる。あーあ、見なかったフリくらいまともに出来ないのかねえ。
「いーの。どうせ面なんか被ってても皆俺のこと知ってるから」

男は逡巡したが、そんなものになんの意味もない。
「アンタ結構ぼんやりだよね」
あの時のようにクツクツ笑いながら言ってやる。

「ムカツク」

敵に向けるような冷たい視線で、机に手をついて覗き込むように男の顔に近づく。
「そのように言われましても…」
どうしたいんだと言わんばかりの顔をする男にカカシは返してやる。
「ワカンナイ、って顔だね」
始めは驚いて萎縮していたが、怯まず睨みつけてくる男を見て、カカシは思わず片眉を上げた。
「ただのぼんやりかと思ったけど…、ふーん」
ムッとして眼を細める表情が意外だった。黒い瞳がカカシの顔をじっと見つめている。
カカシもまた男から目を離すことが出来なかった。

そうか、こいつは俺のこと、怖がらないんだ。あの時倒れたのは元々体調が悪かったってことか。変なチャクラだったしなあ。

何やら自分の方が悪い事をしているような気分になって、カカシはその場から逃げ出した。口だけは強がって捨て台詞を吐く。
「そんな顔しなーいの。…まぁいいや」


受付所から踵を返して、まだ深い夜の闇の中を屋根伝いに飛んで家へ帰る。灯りを点けるのも面倒だと薄暗い部屋の中で暗部装束をばさばさ脱ぎ捨て、風呂にも入らず寝台にごろりと寝転んだ。目を閉じると自分から立ち上る血臭を感じたが、それもどうでもよかった。

『魂揺らし』を見つけて俺はどうしたかったんだろう。
先生の記憶を取り戻すのか?
でも、もうそんなものどこにも残ってやしない。火影としての情報が三代目に還っただけだ。

そんな事俺にだってちゃんとわかってる。


(04.05.30)
やっぱり会話という会話ではないですね。カカイルはどこに…。

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