魂揺らし 3

イルカが暗部衣装を着るのはあの技を使う時だけだ。
素性を隠す為というのが着用の大きな理由だった。偶に里外に出るときは火影が定めた数人の暗部が護衛につく。あの技は火影とイルカの組み合わせ以外では正確に使用する事が出来ないが、悪用される恐れがないとは言い切れない為術者は常に秘匿された。
イルカの実力はあくまで中忍であるのだからそれは仕方がない。母も同じく中忍で、上忍であった父に守られていたのだ。
あの男が言ったのはそういう状況を嘲っての事か。


暗部に身を窶す時、イルカは普段は高く結っている髪をそのまま肩に垂らしているので、受付にいる中忍とは誰も気付かなかった。

今迄は。





イルカは夜間勤務の当直で受付にいた。ランクに係わらず早朝でも深夜でもある程度の人数が報告に来る。
その日受付にいたイルカの前に一人の暗部が現れた。本来火影直轄である暗部も、火影の負担を減らすために任務内容によってはチャクラで封印した報告書を提出する。
何時も通りの対応をして書類を受理したイルカの前から、しかしその暗部は立ち去らなかった。
「あの、何か?」
問いかけるイルカに少し腰を屈めて囁く。
「自分の身、守れてる?」
面の下からのくぐもった声を聞いて弾かれたように肩を揺らしたイルカに、男は自分の面を外して見せた。片目が、燃えるように赤い。
「あ、暗部が顔を晒すなんて…」
相手は口布をしていたが、それでも顔を凝視してしまった事に慌てて顔を伏せるイルカ。それに対して、男は軽く言う。
「いーの。どうせ面なんか被ってても皆俺のこと知ってるから」

確かに。あの目は、初めて見るけど写輪眼…だよな。
てことは、この人ってあの写輪眼のカカシ…。

手配帳に載るくらいだから、暗部として働いていてもこの人物の名は忍の間では知れ渡っている。
そういえば、あの時の男も、同じ銀色の髪をしていた…。
今更気付いた自分に臍を噛む。
「アンタ結構ぼんやりだよね」
あの時のようにクツクツ笑いながら男が言う。

「ムカツク」

目の奥に冷たい光をはらませ、机に手をついて覗き込むようにイルカの顔に近づく。
イルカはまたもその場に縫いとめられてしまった。

「そのように言われましても…」
強張った身体をようやく動かせるようになったイルカが返した。いったいこの人はどうしたいんだろう?
「ワカンナイ、って顔だね」
当たり前のようにカカシは言う。そうだよ、わからないっていうんだよ。
体術もロクに使えない頃、アカデミーを卒業しないうちからあの技だけは叩き込まれた。父母がいなくなってからもイビキと火影によって。
そう、好きでやってる訳じゃない。任務だから、ただそれだけ。

始めは驚いて萎縮していたが怯まず睨みつけてくるイルカを見て、意外だという風にカカシは片眉を上げた。
「ただのぼんやりかと思ったけど…、ふーん」
何やらムッとしてイルカは眼を細めてカカシの顔を見返した。
「そんな顔しなーいの。…まぁいいや」
勝手に自己完結して部屋から出て行く男に呆れたが、握り締めた掌にかいた汗が己の緊張を自覚させた。
――何なんだ、一体…。
もし四代目の事で腹を立てているんなら、とんだお門違いだ。
イルカはそう自分に言い聞かせた。





それからも時々カカシは深夜の受付所でイルカに突っかかってきた。それらはいつも些細なことだったが、覗き込むように顔を近づけて何事か言葉を吐いていく。

「アンタ、イルカっていうんだよね」
「…そうですが」
「や、いつまでもアンタ呼ばわりじゃ可哀想かと思ってさー」

アンタ呼ばわりだって何だっていい。俺に絡まないで欲しいだけだ。
カカシと顔を合わせる度にイルカは嫌な汗をかき、耐えかねて夜勤を辞める事を考えた。元々アカデミーの教員を希望する気持ちが強く、三代目にもそれを伝えてはいたのだ。その為の研修にはいれば、夜勤は自然とやらなくて済むようになる。
アカデミーの件を再三言うと三代目は思案気だったが、とりあえず研修は認めてくれたので、イルカはほっとした。
けれどふとした時にカカシが自分を覗き込む顔が思い浮かんだ。

なんだよ。なんで俺があんな奴の事考えなきゃならないんだ。





そんな頃、珍しく里外での暗部任務があった。
フォーマンセルで任務に出て全滅したチームが出たという。任務帰りにたまたま他の里の抜け忍の集団に出くわしたらしく、飛ばされてきた式によって偵察が出たときには大きな爆破跡しかなかったという。式によると敵の術式がかなり高度なものだったらしい。里に仕掛ける計略があるのかも知れず、火影はそれを解析するべく情報を集めよとイルカを外に配した。
イルカと共に出た暗部は三人。抜け忍がまだ潜んでいる可能性があった為、多めの人員配置だ。前を二人、後を一人の暗部に挟まれてイルカは森の中を飛んでいた。
火影の屋敷に集められた時は自分を入れて三人しかいなかった。阿吽の門を出るときに後方から一人跳んできて増えたのだ。
そして後方から一瞬感じた気配は間違いなくあの男。
いるかどうかもわからない程度の風のような動きなのに。

自分がなぜ気がついたのか、イルカ自身にはわからなかったが。


(04.05.21)
カカシ先生がよくわからない人になってます(汗) イルカ先生もちょっとスレ気味か?

NEXT→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送