魂揺らし 1

めったにあることではないが、身元不明の木の葉の死体が出た時、また高ランクの単独任務に出ていた者の死体が出た時に、イルカは三代目から呼び出される。


火影と何人かの暗部装束の忍びが見守る中、同じく暗部装束を着て獣面を白い組紐で着けたイルカがその身体にそっと触れる。しばらくそうした後に火影の前に立つと、里長がその額に手を掲げてすっと撫でる。時間にして僅か数分。


その場に居る者が一言も発さず見守る儀式。
里の忍が単独で任務に出ているとき、また隊が全滅するなどで生き残りが居ない場合こうしてイルカが呼ばれる。
身元不明の忍の場合、腕だけ、或いは踝から先だけなど五体満足どころか身体の一部しか残らない事が間々ある。頭部さえ残っていれば通常の死体処理班が出るのだが、急いで情報を得る必要がある時、肝心な頭部がない場合にはイルカの任務となる。

それは何故か。


イルカがその身体に手を差し伸べる。

そして触れる

そうすると流れ込んでくるのだ。

「そのひと」の近しい者の顔が。


その多くは親だったり、配偶者だったりした。仲間である事もあった。複数の人間が浮かべば、その人間関係からおのずと素性が知れる。
一般人ならともかく、忍びの顔が一人でも出てくればそれからも判った。
その為にイルカは受付にいる。火影と並び、さりげなく交わす会話の一つ一つが大事な情報。間諜のような行動に気の重くなる時もあるが、それも任務だと自分を納得させた。
忍としての任務ではないのでは、と思う事もあるが、人間として、そのひとの名前をもって送るのは大事なことだった。


木の葉の忍びは使い捨てではない。
火の意思を持つ英雄として、死しても祀られる。忘れられた存在にならない。その為に必要な確認作業なのだから。
そして里としてもっと重要な事。イルカはその身体の持ち主の持つ記憶―機密を引き出せるのだ。
それを火影に渡すのが最も重要な任務。
血継限界などではないが、代々うみのの者が受け継いだ契約に近い使役。チャクラが柔軟に受け渡せる体質が輩出され、尚且つ里長の信頼が厚い家柄ゆえだ。


「イルカ、ご苦労だった」
傍で一連の所作を見守っていたイビキがイルカの肩を軽く叩いた。

拷問尋問部から死体処理班までも束ねる男は、その強面にもかかわらずイルカにとっては優しい兄のような存在だった。父の教え子でもあった男は、両親を失ないその使役について十分な知識をもたないイルカに与えられるだけの情報を与えた。その身を守るすべも。
イルカの両親は万が一の処遇をきっちりと講じていたのだ。元々うみの家に出入りしていたイビキをイルカも慕っていた為、火影もそれを任せており、その全ての修行はは火影の屋敷で行われていた。イルカは素直で屈託のない性格からか三代目にも目をかけられ、直々に術を教わることすらあった。今でも火影の屋敷にはイルカの部屋が残っている。

「はい。滞りなく」
「もう今日は上がっていいぞ」

短い動作でもイルカが思いの外消耗することをイビキはわかっていて、早めの退出を促す。
御前失礼しますとイルカは部屋を後にした。




獣面の紐の房を弄りつつ、屋敷の長い廊下を歩きながらイルカは思う。
木の葉の忍は使い捨てではない。

ああ、でも。

自分が腕一本になった時、誰が認めてくれるのか。



誰にも気付かれないのか。


(04.05.12)
イルカ先生、暗部服を着ているだけです。どちらかというと特別上忍扱いですね。
イビキはオフィシャル設定より五歳くらい年上でお願いします。カカシいないし…。

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