眩しいその光





「はじめまして。うみのイルカです」


そう言って手を差し出してきた人。


この人がナルトに手を差し伸べた初めての人。
三代目でさえ公には認めることのできなかった子供を初めて認めた人。
この人が「あいつは木の葉隠れの里の、うずまきナルトだ」と静かに言ったのを俺は聞いている。血塗れになりながら飛びついてきたナルトを抱きしめ返したのを、すぐ傍の木の上から俺は見ていたのだから。


その時は酷く複雑な心境だった。
だって俺は、先生から「私の残す者を守ってやってね」と言われたのに、先生の死んだ元凶になった者をまともに見ることなく過ごしてきたのだ。先生と同じ色の目や髪を見るのが辛くて厭わしくて堪らなかった。
それをこの人は、自分の両親を失ったにも関わらず、俺からすればいとも簡単に認めて見せたのだから。
そして俺は、三代目から万が一の場合のナルトの処分を任されていた。それほどまでにあの子供はその腹にある九尾の力を危惧されていたというのに…。
この人は。


自分で先生の残した者を処分することを、一方で望み一方で恐れていた俺は、それをせずに済んだことに安堵していた。 同時にイルカに対して、何か得体の知れない畏怖も感じた。
なぜ許せるのか。あんな姿になってまで、なぜ庇えるのか。一介の教師がそこまで肩入れするのはなぜか。


狐憑きという陰口が然もありなん。

だっておかしい。
先生に言われた俺だってできなかったのに。

だから気になった。
あの人のやる事成す事が気にかかった。




結局俺はナルトたち三人を試験に合格させ、俺とあの人は前任と後任の教師同士として握手をした。ナルトと繋がれていた手が俺にも伸ばされる、たったそれだけのことで自分は酷く高揚した気分になった。
なぜだろう。悩んでもわからない感情は自分に必要なものだろうか?




□■□




下忍連れとなるとなんだかんだと受付所に顔を出す回数が増え、イルカが席にいるかいないかをチェックするのが俺の日課になった。イルカの列はいつも大盛況で、それがなぜか気に入らないから少しずつ睨みを効かせるのも忘れなかった。イルカに気付かれない程度に、じわじわと。
アスマや紅は何かに気付いていて笑いを抑えたような顔でよくこちらを見ていた。ふたりとも基本的にはイルカの方に好意的なので、イルカの迷惑になる様な言動をとらないのが不幸中の幸いだった。もっとも上忍の待機所あたりではチクチクとからかわれたのだが。
何でからかわれるのか今ひとつわからない、そう言うと二人は呆れた顔で俺を見た。アスマは上を向いて煙草をふかし、紅は「あんたが見掛け倒しだってのがよくわかったわ」と言い放って爪の手入れをはじめた。かまうのも面倒だといった二人の態度にこっちが不愉快になって部屋から出た。


ふらふらと暇を潰していると受付所の近くであの人を見かけた。背嚢を背負っているところを見るとこれから任務なのだろう。
先生やって受付やって、その上任務にも出るのか。三代目は人使いが随分と荒い。まあ、考えて見れば自分もいいように使われてるもんなあ、と納得する。
あの人、明日は受付にいないんだろうなあ。




□■□




ところが、何日たってもあの人は受付に戻ってこなかった。気になってそれとなく三代目に探りを入れると、思いの外険しい表情で追い返されそうになった。粘って情報を得ようとするといやに剣呑な目で見られる。
「何でお主がそんなにイルカを気に掛ける」
「や、ナルトたちが煩いモンで」
悪いねと思いつつ子供をダシにすると、溜息を吐きながら『絶対にナルトには漏らすな』ときつく念を押して三代目が話しはじめた。

イルカが任務先で交渉の手違いによって捕らえられた、と。一緒にいた中忍達を解放させて一人残ったらしい。相手は忍ではなく侍だから、すぐに如何こうという事はない筈だが思ったより交渉が長引いていること、等々。


聞いた瞬間血の気が下がった。


なにそれ。じゃあ、あの人帰ってこないんじゃなくて帰ってこれないワケ?
それじゃ取り戻さなきゃ駄目でしょう?


「三代目、一体何うかうかしてんですか?」
思わず声に出していた。三代目は微かに片眉を上げて自分を凝視していたが、やがて口を開いた。
「お主にそんな言葉を吐かせるとはな」
曰くありげに見つめられ、『まあ、相手がイルカだからのう』、などと呟かれて多少居心地が悪かったが、下っ端で事が片付かないのなら自分が出張ってやると放言した。暫らく思案していた三代目が諾としたとき、思わず身を乗り出していたのには自分でも笑えた。
俺は一体どうしてしまったんだろうか。
今迄、それが任務ならば出来うる限り完璧にこなそうという気はあったが、与えられた任務でもないのに自分から動く事はあまりなかった。
けれど今は。一刻も早くイルカを助けたかった。




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(2004.07.11)
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