黒紅





銀朱との任務を終わらせた後、四、五日はいつも通りに過ごしていた。
三代目の使いや、中忍としての単独任務。暗部の任務はなかったのでなぜかほっとした。
それでも一応気になって暗部の医療班のところへ銀朱の容態を聞きにだけは行ったが、やはり主な症状はチャクラ切れの方で、怪我はたいしたことではなかったらしい。二日間だけ入院して帰ったと聞かされて少し安心した。
元々あまり病院が好きではないらしく、担ぎ込まれてもいつも早々に逃げ出すように出て行くらしい。医療班のほうでも何時もの事だと慣れているようで、まだ家で寝ているんじゃないかと言われた。が、さすがに家にまで顔を出す気も起きずに、そのまま帰ってきた。

任務を終わらせて、薄暮れた道を歩きながらイルカは同じ事ばかり考える。
見捨ててきたわけでもないのだから、自分が気にすることではないと思う。だが、同じ任務に出た者としては気にかかる。
「はあ。ばかみたいだよなー、俺が気にするなんて。大体、全部あいつの指示だったんだし」
一応そう呟いておく。
本当は何故だかすごく気になっていたけれど。

「だーよ。あんたが気にすることない」
突然真後ろに降って湧いた声に思わず飛び退る。気付かなかった自分に歯噛みしながら。
くそ! 全然気付かなかった!
「なーにぼんやりしてんの。ホントに暗部?」
「う、うるさいっ! あ…な、何か…俺に、用ですか?」
仮にも格上の相手なので慌てて取って付けたように言葉を直した。
カカシは支給服に口布をして、左目を額宛で隠していた。どこからどう見ても、忍者ということを差し引いてもかなり怪しい風体だった。
「や、一応礼を言っとこうと思って」
「え?」
「だから、礼。里まで背負ってきてくれたでしょ」
「それは…、そんなのは当たり前だから礼なんかいりません」
カカシは唯一覗いている右目を瞠ると、そのまま腰を曲げてクツクツと笑った。
「何なんですか!」
いきなり笑われてカチンときた。怪しい上に失礼な奴だ。
「はは…、いや、あんたの返事、真朱と同じだからさ…」
肩を揺らしながらカカシが笑う。
「……」
真朱の名が出て、イルカはぎくりと動きを止めた。
「初めて真朱の前で動けなくなった時、あいつもやっぱり黙って俺を背負ったんだよねー。礼を言ったらあんたと同じことを言い返した」
カカシがイルカを見る。
「あんたたち、本当にそっくりだ」
そう言ったカカシの眉が、苦しそうに顰められた。
「あんた、真朱に惚れてた?」
「…は?」
何を言われたか理解できなかった。
…何だって?
「真朱と寝てたの?」
そう言い直されて、一瞬青くなった後イルカの顔に血が上った。
「なっ、何、ばかなこと言ってんだっ!」
信じられない! 何を言い出すんだこの男は!
イルカはカカシの言葉を侮辱と受け取った。真朱を貶めるようなことを、この男は何故口にするのか。
「あんたっ! なんで俺と真朱が…! 真朱を汚すようなことを言うのは俺が許さないからなっ! なんで…、なんであんたみたいな奴と真朱が組んでたのか、俺にはさっぱり理解出来ないっ!」
激高するイルカを見て、何故かカカシの表情が緩んだ。
「なんだ…、てっきり…」
それを聞かずにイルカは声を荒げた。
「真朱が許していたとしても…、俺、俺はあんたとは…」
イルカは拳をぎゅうっと握った。
「俺のことが気に食わないんなら、もう構わないでくれ! 任務の指名なんかわざわざしなくっていい! そんなに気に入らないなら、あんたの目に触れないような遠くの任地へでも行かせて貰うから…ッ…!」
感情が高まりすぎて、イルカの目の前がじわりとぼやけた。
ちくしょう! 悔しい!
上忍と中忍で階級の差はあるけれど、暗部として働くのに階級は関係ない。それなのになぜこんな風に貶められなければならないのか。
いや、そうじゃない。悔しいのは真朱を貶められたから。
だって真朱と自分は家族同然だった。少なくとも自分はそう思っていた。思慕はあってもそれは恋慕なんかじゃあ、なかった。
途中から黙り込んで、拳を握りこんで小さく震えているイルカを見て、カカシは極まりの悪い顔をしてガリガリと銀髪をかきまわした。
「…泣く事ないじゃない」
「なっ、泣いてなんかいませんっ」
グスリと鼻を鳴らしながらイルカが反論した。その顔が、何というか。
カカシは再びガリガリを髪をかきまわしてから、両手を耳の横に挙げて降参のポーズをとった。
「ごめん、俺の言い方が悪かった」
「…っ!」
「だって一緒に住んでたって三代目が言うから…」
「何でそれが…」
何で一緒に住んでたからってそういう事になるんだ。相手が女ならともかく、真朱と俺は男同士なのに。
「それにこれ…」
カカシがイルカの髪を撫でた。いや、正確には髪紐を。
「真朱がこういう風にしてた」
髪紐についた銀細工を指で弄る。真朱と同じように細工を髪紐に付けていることを言っているのだろうか。そういえばこれをカカシから渡された時には髪紐に付いた状態ではなかったんだっけ。
カカシの露になっている右目が思いのほか間近に見えて、イルカはつい見つめてしまった。繊細な銀色の睫毛がそこにあった。
「こういうのは…、恋人の形見とか、そういうんじゃないの?」
カカシの言い様に、そんな見方もあるのかと変に納得もしたが、それにしてもカカシの言いようは短絡的すぎると反論した。
「これは、思い入れがあるからこうしているんです。元々これは俺が真朱の為に作ったものです。それを真朱が離さず身に付けていてくれたから…。俺にとっては確かに大事な形見ですけれど、そんなの恋人同士だけじゃないでしょう? 俺にはその時…たったひとりっきりの家族だったんだから」
「家族?」
「そうです。そりゃあ血の繋がりは全くないですけど…。人間関係って、それだけじゃないでしょう? 夫婦とか、養子とかあるじゃないですか」
「だから恋人だって」
繰り返すカカシに言い放つ。
「…単なる例えです。だいたい男同士なんだし」
「男同士だって恋人になるよ」
「…っ! とにかく俺と真朱はそんなんじゃありません! 俺にとっては兄のような存在でした! …あー、もう、俺こんなとこで何言ってるんだろう…」
こんな道端で真朱に対する告白劇をしている自分が急に恥ずかしくなって、イルカは口元を片手で覆って唸りながら俯いた。カカシはその首筋が赤く染まっているのを見つめて口の中で小さくもう一度呟いた。
「…男同士だって…」
「は?」
イルカが顔をあげて問い返すとカカシは子供のように首をぶんぶんと振った。
「とっ、とにかく変なことを言うのは止めて下さい。任地のことは三代目に…」
イルカが言いかけるとカカシが手で制しながら言った。
「別に俺はあんたに嫌がらせしたいわけじゃないし、指名したのは単に任務がやり易かったからだから。…だから遠くに行くなんて言わないでよ。変なこと言ったのはホントに謝るからさ」
途中から肩を両手で掴まれて真正面から見据えられて、イルカは視線を外すことも出来ずにカカシと見つめあった。思えばこんな真剣なカカシは初めて見るような気がする。
「わ、わかりました。わかりましたから離して下さい」
なんだかペースを乱されっぱなしだ…。この訳のわからない人にいいように振り回されている気がする。
身体をぐいと仰け反らせてカカシから離れながらイルカは改めて思案した。




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(2004.09.21)

だいぶ間が開いてしまってごめんなさい。
またまた喧嘩してます(笑) でもすこーし会話っぽくなりまし…た?






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