黒紅





里への帰り道は行きと違って多少時間がかかった。当然背中でへばっている上忍の所為だったのだが。
細身に見える銀朱だったが、上忍なだけあって鍛えられた身体をしている。成人男子なのだからそれなりの重さもある。しかも体中の力が抜けている状態なのだ。
「よく…こんな風になるのか?」
チャクラを使い果たし歩く事も儘ならない銀朱を背負いながら、黒紅はついつい声をかけてしまった。この男に自ら声をかけることなど絶対にないと思っていたのに。
「あー、たまにね」
人ごとの様に言う銀朱に、真朱もこんな風になったのかなぁ、とそう思った。
よく組んでいた、と三代目も言っていた。ふたりでへばっていては話しにならないから、写輪眼の能力としては上だろうこの男のサポートにまわっていたのだろうか。何れにせよ特殊能力というのはやっかいなものらしい。
でも、人に頼る真朱っていうのは想像出来ないな…。真朱はいつだってやるべきことは必ずきっちりとやっていた。
やらなかったのは、里に、俺のところに帰ってこなかった、その事。
そういえば真朱の事を聞きたくないのか、とか急に言われたんだっけ。
いったいどんなつもりで俺の前に現れたのか。

背中に背負った身体はあまり体温が高くなかったが、それが元々なのかチャクラ切れの所為なのかは検討がつかなかった。首筋に当たる髪がふわふわしていて少しくすぐったいな、と思った。
「札…」
「ん?」
黒紅は前を見据えて走りながら聞いた。
「札の作り方、真朱に教わんなかった?」
「ああ…、札ね。うん、作り方は聞いたけど俺あーいうの向いてないみたい。なんか面倒くさくてさ」
「面倒くさい…って! 命に係わることだろっ!」
「そうなんだけどね。ま、俺は忍犬も使うし、いざとなったらそっち頼みかな」
「あんたならそんなに難しい作業じゃないだろう?」
「まーね」
「なら、なんで?!」
「犬、八匹もいるし」
「……」
やっぱりダメだこいつ。
黒紅は心の中でそう言った。
せっかく真朱が教えてくれたものを生かせないなんて。
向いてないってだけならともかく、面倒くさいってなんだよ! 人の善意を無碍にするヤツだ。なんで真朱はこんなヤツと組むことが出来たんだろう。真面目で人がいいにもほどがある!
自然と走る足元が荒くなるのに背中からのんびりした声がかかった。
「もーちょっと静かに走れないワケ?」
「うるさいっ!」
「…えーと」
「何かっ?」
「いや…」
何か言おうとしたのかもぞりと動いた銀朱だったが、それきり黙ってしまった。
一度背負ってしまったものを振り落とすわけにもいかず、黒紅は里へ向かって急いだ。



□■□



銀朱を暗部の医療班のところに投げるように置いてきたその足で、黒紅は三代目の部屋へ向かった。
「三代目! ダメですよあいつ!」
開口一番そう言っていきり立つ黒紅を眺めて三代目はのんびり尋ねる。
「帰ってくる早々なんじゃ黒紅、騒がしいのう」
「もう二度と組みませんからねっ! あんなヤツ!」
「何故じゃ?」
「何故って…! あんないい加減なヤツと組むのはイヤです!」
「そう言うでない。アレは案外仲間思いなやつなんじゃがの」
「だってあいつ! 真朱の札の事を面倒くさいって…」
真朱の名が出たところで三代目の目が細くなり黒紅を見つめた。気付いた黒紅はハッと拳を握りしめて頭を垂れた。
「黒紅よ…」
「…すみません…」
愁色を見せて黙り込んだ黒紅を見て、三代目も小さく溜息を漏らす。
身体は大きくなっても、慰霊碑の前で泣いていた小さな子供はまだ癒されてはいないか…。二度も失わせてしもうた故…。
「あやつと組むような任務が今後入るかどうかはまだわからんが考慮はする。今日はもう休んだほうがよい。ご苦労じゃったの」
「は…。御前、失礼致します」
「うむ。ゆっくり休めよ」
退出する黒紅に声をかけながら、三代目は複雑な思いで目を閉じた。



□■□



家に帰り獣面を乱暴に外す。
机に置いたつもりだった面が床に落ちて乾いた音をたてた。イルカはあわててそれを拾い上げると、白いおもてをするりと撫でた。
真朱の面。この面を被ると真朱といるような気持ちになれる。
あの時のひどい色は真っ白に塗り替えた。獣の模様は最小限にしたから夜目には真っ白に見える筈だ。
イルカは面を机の上にそっと置き直してガードや手袋などの装備を身から外した。歩きながら全てを脱ぎ去り脱衣所の籠に放り込もうとして、白いベストに付着した土汚れとは別の赤黒い指の痕と汚れをを見つけた。自分は怪我なんかどこにもしなかった。
とすれば。
「怪我、してたのか」
チャクラをカラッポにしながら飄々としていた男。いつもあんなギリギリの戦い方をしているのだろうか。それとも俺も計算のうちに入っていたのか。
解いた髪をがしがしとかき混ぜて大きく溜息をつく。
わかんねえ。
任務より帰りの道すがらで気力を使い果たしてしまった。
「もー、早く風呂入って寝よ」
誰も聞いていない独り言を言って風呂の戸を引いた。身体を洗いながら湯船に湯を溜め、まだ半分ほどしか入っていないところへ座り込む。
こうして水がざあざあ流れ込む音が好きだ。一定の音が響く風呂場は静かではないのに静けさがあって、暖かく。

そういえば父ちゃんも風呂が好きだった。
たまにだけど母ちゃんの背中を流してやった。
真朱が任務から帰るのを風呂を沸かして待っていた。

頬を流れるものがあったが、きっと湯だろう。





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(2004.09.11)

また喧嘩してます。喧嘩好きカカイル(笑) イルカの口が悪いせいだろうか?





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