黒紅





九尾の災厄で親を亡くした子供は山のようにいた。
片親や面倒を見てくれる親戚のある者は誰かしらに養われる事になったが、当然それが全くない者もいた。子供たちは主にそれ用の施設に入れられたが、イルカもまた一定期間そこに収容されていたのだ。
両親と住んだ家はたかだか12歳の子供が管理するには荷が重く、治安の問題もあって里が管理することになった。
イルカがいたのはアカデミー生ばかりが集められた施設で、最低限の食事と小さな居室だけは与えられた。三代目の意向で飢える事はなかったし、アカデミーへも引き続き通う事ができたが、かといってそれ以上が与えられる訳でもない。ましてや二親から与えられていた愛情を突然失った穴を埋めるものなどなく、はじめの頃は部屋で一人膝を抱えていた。
当然のようにアカデミーでの成績も下がり、ふざける事でしか人の気を引く事が出来なくなっていた。
そんなある日、イルカは慰霊碑の前で三代目に声を掛けられたのだ。

「もう、一年になるか」
「アカデミーでは、お前はいつも笑いの中心になっていると担任から聞いたが…」

突然声を掛けてきた三代目に、それでも精一杯の虚勢を張った。
自分は英雄の子供だ、一人になったって悲しくなんかない、と泣きながら叫ぶ、そんな俺を抱きしめてくれた三代目。
お前はひとりじゃない。
火の意志を持つ限り里に居る者全て家族そのものだ、と。
お前は火の意志を持っているか、と問われて、イルカは。
三代目の言葉はその時のイルカにとって心に沁み込むものだった。
だから、それに続く言葉に頷いた。




□■□



三代目に連れて行かれた場所で、初めて彼に会った。
黒目黒髪で、二つ年上の青年。穏やかな笑顔が、幼い神経をささくれ立たせていたイルカには眩しかった。
真朱(しんしゅ)と名乗る青年は、そこでイルカの師となった。二歳しか年が違わなくとも、そのセンスと能力の差は歴然としていた。聞けばまだ中忍になったばかりだと言う。不思議そうな目を向けるイルカに真朱は言った。

「君がこれから進む道には、そんな肩書きは意味がないんだ。任務を果たして生き残る事。それさえできればいい」

イルカはただ頷いた。
思わず見つめるその瞳の中に揺れる焔を見つけてイルカが感嘆の声を上げると、真朱は薄く笑った。

「これが俺の秘密。皆には内緒だよ?」

それが血継限界の写輪眼だと知ったのは随分と後になってからだった。
実際そんな事を考えるヒマもない程しごかれた。
アカデミーでの授業とのあまりの差に愕然とした。毎日気を失う一歩手前、もしくは気を失っても水をかけられるくらいには厳しかった。だが、それが終わればいつもの優しい顔を見ることが出来た。

真朱とその母親は真朱がまだ幼い頃に木の葉を出て他の里で暮らしていたそうだ。父親はうちはの一族の中でも分家の末端の家柄だったらしいが、真朱の存在に気付くことなく若くして亡くなったらしい。
真朱も自分にうちはの血が流れていることなど初めは知らなかったそうだが、母親が病で亡くなる前に事実を知らされたそうだ。母親は病による自分の余命を知り、三代目に真朱を託したらしい。万が一血継限界が継承されているならば、木の葉で育ったほうがよい、と。
他里では血継限界を持つ者はしばしば迫害されていた。木の葉のように家柄として認められているほうが珍しいといえる。忍ではなく一般人だった真朱の母親は、自分が元気な頃は我が子を奪われるのが恐ろしくて里から出ていたが、自分が居なくなった後、子の安全を願うには木の葉の方が環境が良いと判断したのだ。
三代目は母親の訴えを受け、真朱をうちはの一族に引き渡さなかった。もとより一族には知られぬ存在であったし、写輪眼も発露していなかった為だが、その忍としての素質を認めた所為でもある。
そしてイルカが今いる環境に真朱を置いたのだ。
三代目の読みは正しく、真朱はあっという間に頭角をあらわした。ないかと思われた写輪眼も発露したが、あえて公表されなかった。それがなくとも新人を育てる余裕が出来る程の実力を既に手にしていた。

昼間はイルカの指導をし、空いた時間に任務をこなす。
それは所謂暗部の任務であった。



□■□



三代目がイルカに問うた事。
それが「わしの直属で任務をせんか」という事だった。
イルカは一も二もなく頷き、三代目に付いて行った。そして真朱と出会ったのだ。イルカの浅い人生の中で、両親の次に沁み込んできたのは三代目と真朱だった。

疑似家族が出来て、イルカは元来の明るさを取り戻す。
比較的器用であったから教えられた事をよく吸収したし、勝気な性格も手伝って出来ないことに対して努力もした。それは三代目を喜ばせ、真朱からの信頼を得た。二年もすると見違えるほど忍としての腕が上がり、黒紅(くろべに)という通り名を与えられた。その時に真朱がひっそりと自分の真名を教えてくれた。それだけの信頼を得たのだとイルカは喜んだ。
それからは真朱だけでなく、他の暗部と組んで任務に出るようにもなった。
それでもイルカは普段は犬の仔のように真朱に懐き、兄弟のように生活していた。イルカはその名のままに呼ばれ、イルカは真朱を兄さんと呼んでいた。真名を呼ぶのは気恥ずかしかったからだ。
裏表のない朗らかな黒紅と、それを見守る目元の涼しげな青年に成長した真朱は傍目にも本当の兄弟のようだった。一般人に紛れて市井で生活する二人は、それまでの過去の経緯を互いに忘れるように暮らしていた。
イルカはその屈託のなさから近所の者からも好かれていた。二親を亡くして兄弟二人暮らしている、という周囲への説明もあり、何くれとなく気にかけてくれる者が多かった。それは惣菜であったり話し相手であったりしたのだが、ある日細工屋がイルカに銀細工を教えてくれるという。
自分より遥かに多い任務をこなす真朱と違い黒紅は日中を家で過ごす事も儘あったので、言葉に甘えて教えて貰った。悪戦苦闘の末出来上がった初めての細工はお世辞にも上手とはいえない仕上がりだったが、忍刀の腕貫緒にでも付けて貰おうと、丁寧に磨き上げた。

「兄さん、これ…。今日シュウさんに教えてもらって作ったんだ。不恰好だけど、貰ってくれる?」
「イルカが作ったのか? よく出来てるよ。ありがとう、大切にする」
「うん!」
「悪いな、家の事は殆んど任せてるのに」
「そんなのいいよ。俺なんかまだまだ兄さんみたいに任務に出れないし…」
「これからだよ。イルカは覚えがいい。もっと伸びるよ」

夕餉の席で細工を渡すと真朱が思いの外喜んでくれて、イルカははにかんだ顔で笑った。その頃の真朱は項あたりで髪を紐で括っていたが、イルカが折角作ってくれたものだから、と、その飾り紐に細工を器用につけた。
そんな真朱の心遣いが嬉しくて、何時にも増してはしゃいだものだ。

そんな生活がある日、崩れた。


真朱が帰ってこなかった。






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(2004.08.13)

激しく説明くさいですね。しかもカカシが出てきませんでした。ごめんなさい。
カカイルなんですよー?






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