銀朱





カカシは三代目の執務室に向かった。
今日の任務にはサポートをつけていいと言われていた。ならばもちろんあの男を推そうと決めて三代目に伝えた。
三代目は何故かと聞いてきたが、なんとなくやり易かったからと答えた。実際自分でもそれ以上のものなんてわからないのだし。
「同病相哀れむ、などというのは認めぬぞ」
「そんなつもりはありませんよ。ま、少々の興味はありますが」
「…興味のう。あれを傷つける事許さんぞ?」
「そんなにお気に入りですか? あの中忍が」
「もちろんじゃ。中忍にはワシがわざと止めておる。上忍になどしたらすぐ死んでしまうじゃろうしな」
「そりゃあ、弱ければ…」
「弱くはない。そこらの上忍より余程使える。だがあれは本人が思う以上に自分に無頓着すぎての」
言いながら少し眉を顰めている。
「殺気がわからない、とか言ってましたけどね」
「あやつがおぬしにそこまで話したか。…ふむ」
煙管を咥えて目を閉じ、しばらく考えてから三代目は頷き、そして言った。
「今回は認めよう」

そこへ丁度よく黒紅が入ってきた。カカシは気配も消さずその場に立つ。
黒紅は憚ることなく盛大に眉を顰めたが、カカシのほうも気にする事もなく涼しい顔でそれを迎えた。
「おお、黒紅、丁度いいところへ来た。任務を受けてくれんかの?」
三代目が煙を吐きながら書類を差し出す。カカシが去らないのを訝りながら目を通していくうちに眉間の皺はそのままに黒紅の片眉が吊り上る。
「これはツーマンセルの、しかも暗部の任務ですよね、三代目」
「ああ、そうじゃ」
「俺は誰と出るんですか?」
「そこに居るじゃろ」
「何がですか?」
黒紅が睨みつけるのを無視して三代目がのんびりと煙管で指し示すのはやはり銀髪の男だ。
「そこに居るカカシ…、銀朱と行け、黒紅」
「…っ! 三代目っ!!」
「任務じゃ。今回の任務は銀朱ひとりでは出せんのでな。どうしてもツーマンセルが必要なんじゃが、こやつがお主と組みたいと言うもんでのう」
「…俺にだけ拒否権がない訳ですね」
黒紅が顔を歪ませると、三代目が目を細めた。
「そろそろ好き嫌いをなくさんか。このままのお前ではいずれ忍として支障が出るようになる」
「……」
「黒紅よ」
「…すみません」
「よい。気をつけてな」
黒紅は手の中で書類を燃やすと頭を下げた。
「御前、失礼致します」
カカシを見もせずに黒紅は頭を下げて退室した。

「ちょっと待ってよー」
すたすたと廊下を歩く黒紅を追いかけて声を掛けるが、黒紅は無視してそのまま歩き続けていく。
「ねえ」
何の気なしにひょこひょこと揺れる結わかれた髪の束を掴んだ。弾みで髪紐が解けて髪が広がった。
「何すんですかっ!」
黒紅が大声を出して後ろへ跳んだ。前髪が落ちるのを片手でガッとかきあげて怒鳴る…、その仕草が。
なんか。
なんか、ちょっと。
「何がしたいんですかっ! アンタはっ!」
その姿に思わず眼を瞠る。相変わらず眉間に皺を寄せている黒紅。
「時間に遅れないで下さいよっ。任務は任務ですからっ!」
黒紅はそういい捨てるとそこから走り去った。
手の中に残る髪紐を握り締めたまま、カカシは呆然と立ち尽くした。



□■□



その晩カカシは時間に遅れなかった。何故か気分が高揚して黒紅より早く待ち合わせの場所に着いたほどだ。
「今日は随分と早く来たんですね」
いやみを言われているんだろうなと思いつつも、さして気にならなかった。
「行くよ」と告げて先行する。今回の任務は自分がメインの仕掛けなので、黒紅には指示を与えなければならない。
火の国の外れ、石竹の里の外れにある深い森の中にある広大な開墾地を潰す任務。神経毒の元となる植物を栽培する里人から利益だけを搾取する悪人どもも諸共に。
中に多少やっかいな術を持つやつがいるらしいから、それを頂いてから、潰す。
それだけのことだが如何せん使うチャクラの量はかなりのものだ。だがそれを黒紅に言ってもしょうがないので、敵忍の追い込みを指示する。
「この先に追い込んで。結界張っておくからアンタは仕事が終わったらすぐにそこから離脱して。でないと巻き込まれちゃうよー」
真面目な顔をして頷く黒紅に満足して二手にわかれる。三代目のお墨付きもあることだし追い込みくらいは難なくやってのけるだろう。
神経を尖らせて気配を探れば、風遁や火遁を自由に使いこなしているのがわかり、癖のない術捌きに口元が緩む。
うん。間違いなくやり易い。
気の乗らない奴と組むのは拷問に等しいが、今のこれは、楽しい。

目当ての男達が結界に踏み込んだのを確認して、まずは余計な奴等を潰した。術を持つ奴がそれを発動するように挑発して、次々とコピーする。
三代目が欲しがるだけあってそこそこに使える術で、カカシともそれなりに競った。だが自分の術を完璧に返されて打つ手がなく、自爆技をだそうとしたので咄嗟に火遁で押し出す。火薬に火をいれた状況に巨大な火柱が上がり、みるみる燃え広がっていく。開墾地のほぼ中央で戦っていたため、地中に潜り、炎が栽培地の殆んどを焼く前に森との境界線に土遁で障壁を作った。
あー、けっこうヤバいかも。
たいした怪我はしていないが、チャクラが尽きている。コピーに思いのほか喰われてしまったようだ。
黒紅が水遁で水を撒いているらしく、地中が湿ってきた。これならいいかと頭を出し、新鮮な空気を吸い込むと一息ついた。
カカシが動かないのを不振に思ったのか、黒紅が傍に降り立つ。
「さっさと終わらせて帰るぞ」
声をかけられたので「あ〜」と唸り声で答える。
「ちょっと引っ張ってくんない?」
「は?」
「動けないんだーよ」
萎れた銀髪を見て黒紅が呆れたように声をかけてきた。
「もしかして、チャクラ切れなのか?」
少々バツが悪くて苦笑いをした。
「こうなるの、わかってたのか」
「あー、いや、まあ…」
問いかけにフイと横を向き溜息をついた。
「思ったよりてこずったんだよね。ここまでカラッポになるとは思わなかった」
憮然と口を開くと黒紅が小さく笑った。
「…笑うなよ」
「ごめん。ほら、手ぇ出せ」
思わず素直に手を伸ばし、引き起こされる。そういえば、暗部の時の黒紅の喋り方は随分ぞんざいだ。そんなことを考えていると黒紅は唐突にカカシに背を向けて屈んだ。
「ほら」
「いいよ、少し休めばなんとかなる」
そんな、格好悪いし。
「俺が早く帰りたいんだよ」
そう言われると反論できず、カカシは諦めてその背に被さった。その身体をしっかりと背負い直して黒紅は歩き出した。




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(2004.10.19)
カカシ、働いた甲斐がありました(笑)





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