銀朱





いつものように終わらせる筈の任務だった。
真朱と二人で出て、たいした任務じゃないと思っていた。だがそれは、二重三重と巡らされた偽りの依頼だった。里長でさえ騙されたのだから。
二手に分かれて敵とやりあい、嫌な予感に真朱を探した。自分に向かってくる敵が明らかに少ないのを感じたからだ。
写輪眼を狙ってくる奴は多い。どいつもこいつもカカシが年若いと知ると実力を軽んじて向かってくるのだ。他の写輪眼の持ち主より手に入れやすいと思うのだろうか。しかしそれはまったくの大間違いなのに。
確かにカカシは写輪眼を後天的に手に入れたが、忍としての実力は幼い頃から一流だったし、それに見合うだけの努力もしてきた。ただ写輪眼を持っているだけのうちはの奴になんか負けないくらいには。
使いこなすという点でいけば、スタミナ以外完璧だった。血族ではない自分の身体ではそれだけは如何ともし難いと歯痒かったのだが。
そしてツーマンセルの相手、真朱も写輪眼を持っていた。
自分のように焔が三つあるわけではなかったが、効果的に扱う術を身につけていたからスタミナ切れをすることが殆んどなかった。
しかしうちはの人間にはその存在を知られていないこと、明かしてはならないことをカカシは三代目に厳命されていた。
お家騒動などに興味はなかったし、任務上も差し障りがなかったからさして気にも留めなかったのだけれど。
実際、真朱と任務に出るのは楽だった。息が合う、というのだろうか。会話は必要最低限だし、愛想がいいわけでもなかったが、それは自分も同じ事で、信頼できる相手という気がした。それは繰り返し一緒に任務をこなせば自然とわかるものだ。
しかし写輪眼の使い方についてだけは色々と意見を交わした。特に戦いの荒いカカシのスタミナ切れについてはよく意見された。

だが今、真朱がその眼を使っていたなら。
狙われるのは写輪眼だ。
二人のうちのどちらかがそうだとしたら。
真朱がそれを隠していなかったら。
どちらに敵が集中するか考えるまでもなかった。
考えたくはないが、囮という選択肢を真朱が選ぶことは想像に難くなかった。
真朱はとても冷静だから。

そしてたどり着いた処に。
複数の敵に囲まれて、外れて首に掛かった獣面も白い暗部の衣装も真っ赤に染めた真朱が木に凭れ掛かるように座っていた。
そして。
目が。

あの焔を持った目が。

無残に抉り取られていた。

「…ッ!真朱ーっ!」
叫びながら敵を蹴散らした。左目を露にして真朱に駆け寄る自分を見て驚いているのを見ると、やはり写輪眼を狙って真朱を襲ったのだろう。では真朱は俺のフリをして?
全てを屠り辿り着いた時には真朱の身体は地面に倒れこんでいた。
辺りには肉の焼ける匂いが濃く漂っている…。では真朱は自分で眼を抉って焼いたのか。
「真朱…何でっ!」
身体を起こすと僅かばかり口が開いた。
「お前の…方が…、残らな…と…」
いつでも冷静な真朱。
「…あれ…は…」
真朱が力の入らない手で自分の髪紐を探っている。…ああ、あの飾りを探しているのか?
顔を巡らすと少し離れたところにそれは千切れて落ちていた。カカシが拾って握らせてやると、薄く笑った。
――そんな風に笑うな!
堪らず真朱、と呼ぶと、細工を握った手をカカシに差し出し、そのまま何か言おうとして、腕がぱたりと落ちた。
「あ…」
人の死なんて見慣れてる。見慣れてる筈なのに。
カカシは真朱の握られた掌を開き、赤く濡れた銀細工を取り出した。
あんたはこれをどうしたかったの?
大事にしてたよね、これを。きっと誰かにもらったんでしょ? そいつに渡して欲しい?
ああ、でも、そんなことをしても、あんたがこんな風に死んだ事を話す訳にはいかないよね。もちろん遺品なんて渡せるわけない。
ねえ、俺はどうしたらいいのかな。冷静なあんたなら教えてくれるだろう?



□■□



この間の黒紅という暗部。
真朱の真名を知っていると言っていた、真朱の細工を見て呆然としていた男。
二人がどんな関係だったかなんて知らない。
ただ、話を。
真朱の話をしたい。

黒紅を捜してなんとなく演習場へ来た。たまに真朱は自分をここへ呼び出して鍛錬をしたから、もしやと思った。
案の定そこには捜している気配があった。
黒紅は演習場の木の上にぼんやりと座り込んでいた。暗部装束ではなく里の支給服を着て額宛をしている。
暗部の時と印象が随分違う…。
そう思いながら完全に気配を消したまま近付き、一気に真横の木に跳んで枝をしならせると、瞬時に気配を尖らせて黒紅がこちらを睨んだ。
「…何か」
硬い声で怪訝そうに問うてくる。
「あんたさ、あの当時、物凄く俺のこと調べてたでショ」
カカシは出来るだけ軽い調子で言う。
「それが何か?」
何か…それは俺が聞きたいくらいだ。自分が何でこんなことをしているのか。
「何って、こっちとしても気になったワケよ」
「それは失礼致しました。今ではもうそのような事はしておりませんので」
「そうなんだ」
「そうです」
けんもほろろな物言いに、思わずおかしな事を口走ってしまう。
「もう俺のこと気になんないの?」
「はあ?」
何言ってるんだ、俺は。
「俺は今ではもうあなたに干渉していません。先日の口のききように関してはお詫び致します。でも、それだけです」
黒紅はカカシと視線を合わせずに一本調子に言ってその場を離れようとした。
木の枝から飛ぼうとしたその腕を、思わず掴んでいた。
「…ッ、何っ…?」
「真朱のコト、聞きたくない?」
「?!」
「俺ね、結構あいつと組んでたよ?」
「…知ってます」
憮然と答える眉間に皺が寄る。あーあ、可愛くない顔して。
「でもさ、あんたのコトは聞いたことないんだよね。あー、まあお互いプライベートなんてわざわざ話しやーしなかったんだケドね」
「…当たり前です。暗部なんだから」
眉間の皺を隠すように力を抜き、呆れたように言い返してくるのに、カカシは頭をがしがしと掻いた。
「あー、そういうトコ、そっくりなんだな…」
「え…」
「言い方はそっけないけど、いちいちクソ真面目に答えるトコ」
真朱はそういうところがあった。よく言えば優等生。悪く言えば融通が利かない。
「貶してるんですか?」
「や、そうじゃなくってさー。でも、いつも誰か待たせてる風だったなー、アイツ。姐さんたちとの遊びに誘っても全然ついてこなかったしさ。ねえ、あれはあんたの所為? あんた達兄弟なの?」
「…違います」
誰かを待たせていると思ったのは本当だった。寄り道をせずに帰る子供のように、真朱は任務が終わるときっかり帰っていった。だから、これは女でも待っているんだろうなと思っていたのだ。
「ふーん。似てるんだけどなー」
似ている、と言ったら黒紅は複雑そうな表情をした。
しかし遊びに誘ったなどという余計な一言が気にくわなかったらしく、ムッとした表情が戻る。
「お話がそれだけなら、失礼します」
「あー、聞かないんだ?」
「興味も何も、あなたに聞いたって仕方ないですから」
それだけ言って黒紅は、あっという間にその場を離れた。
なんだ? 気になる。
そうだ、今日に任務に連れて行こう。カカシは勝手にそう決めた。




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(2004.10.16)
カカシも真朱には執着してますね。まあ、展開はカカイルなので…ごほ。





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