その日カカシはアルバイトに出て居た。…と言うか出させられて居た。
カカシ自身はかなり渋ったのだが、昔馴染みの暗部仲間…カカシより更に年上だと言うのに未だ現役暗部を張っている男…が、是非に!とカカシを呼び出したのだ。
 曰く
『絶対に後悔させねぇ。イイモン見せてやるよ』である。

 それでも本当は家で最愛のvイルカといちゃいちゃして居たかったカカシだったのだが(注 カカシビジョン)生憎とイルカに急な任務が入り、一人取り残される位なら…と参加を決定したのだった。





「で、イイモンって何よ。」
 面に暗部装束。
髪を除けば個性の無い姿となったカカシがかったるそうに訊ねると

「ア〜ちょっと待て。もうそろそろの筈だ。」
 面の中で、明らかににやにや笑っているだろう男にカカシは気付かれぬと承知で眉を顰めた。
今回の任務は表向き警戒だが、実際は抜け忍の一団が他里に追われて木の葉に進入しようとしている…との情報が入った事に起因していた。
どこぞの機密を盗んだ馬鹿共が、しかし逃げ切る事に失敗し。じわじわと此方へと追い遣られて来ている訳なのだ。
だから同盟里の協力要請を受けた木の葉が、自里の防衛を兼ねて此方で罠を張り敵の捕獲に手を貸すのである。
しかし飽く迄、捕獲。
『殺』す事は許されていなかった。



「言っとくけどネジの艶姿なら俺もとっくに拝んでるからね。」
 ま、確かに中々のモンだったけど あの程度の色気じゃ

「俺の!イルカ先生の足元にも及ばないしぃ〜」
 語尾が微妙に上がる。面の中では鼻の下が伸びているだろうカカシに、同僚は含み笑いを返した。

「ま、もう直ぐ判るさ。それにあの子は今日は待機だ。」
 アイツ、一応未成年だし

 その男の言葉に引っ掛かったカカシが、首を傾げる。
確かに色々と問題があるので、ネジが居る隊には未成年を入れられ無いが…そもそもお子様では、イザと言う時に動けなくなってしまう…ネジ自身が未成年である事には問題無い筈だ。
なのにそれを理由に態々外している?何が不都合だと言うのだろうか。

「はぁ?何なのよ、それ。」
 だから直接訊ねてみても

「良いから。お前も直ぐに判るって!。」
 と、にやにや笑ってはぐらかされるばかりである。

「一体、何なんだって。」「内緒だ。」
 だらだらと話ながら、それでも警戒は怠らないあたりが流石、里屈指の手練達。
だから皆、瞬時に反応したのだ。感じ取った、不穏な気配に。

『南だ!』
 仲間の誰かが叫ぶより先に走り出す。
お陰でイイモノが何なのか聞き出す事は叶わなかったが、其れは其れ。里を脅かす相手を排除するのは里の忍として当然の義務だ。
だから全力で駆け続ける。

 …傍らに並んで走っていた仲間が
『おっ丁度良い場所に出たぜ。』
 と酷く嬉しそうに呟くのを小耳に挟みながら。





 複数の気配が蠢いている。
木の葉の忍も頑張っている様子だが、どうも押されている様子だ。やはり『不殺』の枷は重かったのだろう。
急いで仲間の援護を…と俺が更に速度を上げようとした、その時であった。


「待て!」
 然して大きい訳でもない、なのに良く通る…凛として涼やかな声が辺りに響いた。
一斉に見上げた樹の先端には、煌々と輝く月を背に負った細身の人影が一つ。
それに人々の動きが…敵味方共に…一瞬、止まる。


「「「「「な…」」」」」
「「「「「来たvv」」」」」

 飲まれた様に固まってしまった輩と、期待に戦いの手を止めてしまった人々。
刹那の隙を、その『影』は見逃したりはしなかった。
瞬身であっと言う間に地に移動し、行き成り手近な敵に向かって蹴りを繰り出す。

「ウグ…」
 蛙のような声と共に抜け忍の一人が吹き飛んだ。
何処か呆然としたカカシの傍らを相手が通り過ぎる。

 間違い無く自分達と同じ木の葉の暗部ベスト。なのに下は極端に布地をケチったパンツ姿で、白い太腿がふんだんに晒されている。
何よりその顔を覆う暗部面は器用にも『蝶』を思わせる形へと砕かれていて、目元こそ隠しているが楽しげな笑みを浮かべた口唇は外気に晒されるがままになっていた。
特別な意匠の、唐突に上から降って来た『仲間』が、そのまま流れるような体捌きで次々と敵を蹴倒して行く。
揺れる長い黒髪、夜目にも白い手脚。動きの一つ一つまでもが妙に扇情的で、眼を離す事が出来無い。
思考が真っ白になってしまった人々が、皆惚けたように只管『彼』の動きを追い続ける。

「!!」
 と、最後の一人…どうやら我に返ったらしい男が、一瞬身構えた。が、次にはその首に細身の皮鞭が何本も一度に男に襲い掛かる。

「無駄!」
 端的な一言と共に鞭でしばかれ吹き飛んだ男の鳩尾に、止めとばかりにピンヒールが食い込んだ。そして悶絶した男をそのまま踏み付け。

「はっはははは…女王様とお呼び!」
 ピシッ
鞭の音を効果に、哄笑が里の南の森へと響き渡った。





「な、イイモンだったろ。」
 魂が抜けた様子のカカシの肩をポンと叩いて先刻からつるんでいた暗部が囁く。

「何、アレ…」
「伝説の暗部『姫』様だ。ネジの前任って奴さね。」
 うわ言のように呟いたカカシに、嬉々として解説してくれる仲間である。

「『姫』…」
 そう言えば聞いた事があるような…?
凄まじい『色香』で敵を惑わすと言う謎の暗部。
遠方任務が殆どだったカカシとは違い里守に徹していると言うその暗部と、カカシは今の今迄顔を合わせた事はなかったのだ。

「5年位前まで『木の葉のお色気暗部』ってのはアイツの事だったんだぜ。
正規部隊に移っちまったんで其れ迄になってたんだが、今回は『捕獲』しなきゃいけないってんで、特別に復帰したらしい。」
 殺さずに捕まえるんならアイツが一番の上手だ  ネジはまだ、ついうっかりで力が入り過ぎる事があるからな〜
呵々大笑する、男。だがその説明を、カカシは碌に聞いてはいなかった。
カカシの視線の先では、捕獲を尋問部の面子に任せた『姫』が結い髪をゆらしつつ、さっさと一人戻って行こうとしている。



 だから

「待って、待って下さいっっイルカ先生〜〜〜!!
 その背を追って、カカシは慌てふためいて走り去った。
内心は、大いに混乱したまま。







「なんだアイツ等、知り合いだったのか?」
 そして後には。
怪訝そうに呟く仲間が、置き去りにされていたのだった。









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