その日も、カカシは元気にイルカ宅へと帰って来た。そう、『帰って』来たのである。
殆ど無理矢理部屋に居つく様になってもう一年以上。もう誰も、当事者であるイルカからさえ文句の出ない程、公明正大に二人は…
『同居』していた。



「只今っ。」
 誰も居ない部屋にでもしっかり挨拶する様になったのはイルカの躾のお陰である。
暗部時代は挨拶など言う事もなかったカカシであった。但し、唯一絶対の言葉として「戴きます」と「御馳走様」は食堂のオバちゃんに仕込まれていたりするのだが。
ま、それはそれである。

「今日は残業なのかな。…ン?」
 明かりを点けて、ベストを脱いで。そして気付く、机の上の紙。

『任務が入りました。戻るまで留守番お願いします。
食事はウチとカカシ先生んチの冷蔵庫に入ってます。 イルカ』

「いっっイルカ先生!!」

 メモに眼を走らせた途端、カカシは沸き起こる不吉な予感に促されるまま思わず外へと飛び出した。
尤も、戻って戸締りをしっかりしている辺りにイルカの教育の根付き具合が判る。
それから取るものも取り敢えず『自宅』へと走り込み、冷凍庫の扉を開けて見る。と

うっ…うわああ・・・・

 其処には、どう見ても一週間やそこらでは食べ切れない量の。『手作り冷凍食品』が鎮座ましまして、居た。





「……」
「カカシ先生、今日も暗いってばよ。」
「本当、見てる方も落ち込みそうよね。」
「…ウスラトンカチが。」

 隠れもせず大声で話し合われていると言うのに振り向こうとさえしない上忍は、それでももそもそと食事を続けている。
あの日から、一週間。イルカはまだ帰っていなかった。
しかし流石は受付、きっちりと手配りしていったらしいイルカは『特製弁当』をもそのまま包めば持って行ける形で箱詰め(10両ショップの弁当箱だったが)にして冷凍して置いてくれたのだ。
その数、実に20個。それはつまり…

「イルカ先生、20日も帰って来ない気なんですか〜…」
 ぶつぶつと呟きながら食べる上忍は不気味である。
だが。初日に文句を言ったら、人様のお屋敷だったと言うのに泣き伏されてしまった(嘘泣きだった事が後に判明)部下達は、最早何も言い出せなくなっていた。

「イルカ先生〜〜」

 無論カカシとて悪戯に手を拱いて居た訳ではない。
あの、冷食の山を見てすぐ受付に殴り込みを掛けたのである。だが、守秘義務を盾に断られ。『上忍の殺気』を持って口を割らせようとしていた所を火影の煙管で攻撃されてしまった。
その上で、『そんな余力があるならば任務行って来い!』と怒鳴りつけられて。…突発でBランクの梯子なんぞやらされる羽目に陥ったのである。

「…クソっ三代目め…」
 ぶつぶつ。
自分とイルカの関係をとっっても良く知っている筈の三代目である。だったら少し位考慮してくれても良い筈だ。なのにこんな『長い』任務を割り当てるだなんて…
人間は、御飯食べないと死んじゃうんだぞ、と。任務中なら一ヶ月丸々兵糧丸で暮す事も出来る上忍が、小さく呻き続ける。

「イルカ先生…」
 そして切ない程只管に、呼ぶ。
…カカシのイルカに対する禁断症状は、最早危ない所まで達して居た。






イルカが居なくなって十日が過ぎ。
しかしカカシを取り巻く状況はあの後急激に変化していた。何故なら

「あのっ、はたけ上忍。此れをっっ」
 真っ赤な顔をして弁当を差し出す中忍くの一。

「ほら、私の作った卵焼きよv食べて見て。」
 そう言いながら箸に挟んだそれを食べさせようとする、上忍。

「肉じゃが作ったんです、宜しかったらどうぞ!」
 可愛らしい柄付きの保存用タッパーを差し出す特別上忍。

…そう、カカシは。くの一の標的となっていた。


「何で急にカカシ先生ばっかり差し入れ来るんだってば?」
 昼時。くの一に埋もれるカカシを遠眼に見ながら首を捻るナルトに。

「そう言えば、前にイルカ先生が長期任務に出てた時はこんなに露骨じゃあなかったわよね。」
 サクラもまた怪訝そうに疑問を口にした。其処に

「そりゃあ、ね。」
「うわっっ」「な…紅センセ!?」
 ひょっこりと。
悩む二人の間に美貌の上忍が首を突っ込んで来た。


「前の時に誰も寄って来なかったのは、あの二人が恋人同士…と言うかもう夫婦状態だと皆、思っていたからよ。」
 にっこりと。しかしアスマ辺りが見たなら背を向けて逃げ出しただろう…人の悪い笑みを浮かべて、上忍くの一が語る。
だが其処に居たのは、生憎と下忍の子供ばっかりで。彼等には其処までの危機回避能力はなかった。だから大人しく上忍師の話を聞いてしまう。

「違うんですか?」
「違うみたい、よ。」
 驚いた様に訊ねたサクラに、軽く肩を竦めて紅が応じる。

「この前の宴会で、アイツがうっかり洩らしたのよ。…そんな関係じゃないって。」
 流石に誤魔化しながら伝える、紅である。何故なら真相、は…


                       ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



『そんなに具合が良いんか、あの中忍。』
だったらちょっと貸せよ
 品の無い、序に出来も大して良くない上忍の一部が、酒の勢いに任せてそう嗤う。
するといつもならその手の話題はただ、鋭い殺気を漂わせるだけの銀色が

『…ふっ、何を言うのさ。』
 と。珍しくまともに返事をした。

『具合…具合、だって。』
 フッフッフと低く笑うその銀髪の眼はしっかり据わっていて、思いっきり酔いが回っている事を表している。
なのに、誰も制止しようとはしない。…その方が面白そうだから、である。

『聞いて驚けっ!俺とイルカ先生はな〜清い清い付き合いなんだぞっ』
 胸を張る上忍に、皆からおお〜歓声が上がった。

 そして、どうした身体でも壊したのか?それとも終に打ち止めに…等々。皆が騒ぎ立てる中

『だってイルカ先生がその気になってくれないんだよ〜』
 さめざめと泣き真似をして見せる銀髪、だった。それ以前の問題として、まだ恋仲になっていないと言う事実は何処かに放り出されているらしい。
そして、そんなモン力尽くででも何とか出来るだろう…と。物騒な提案をした馬鹿に対して

『んな事したら御飯作って貰えなくなるだろうがっ』
 俺はまず、あの人のメシに惚れたんだっ
 ビンゴブックにも載る酔っ払い上忍が、エッヘンと威張って情けない真実を晒すのに…
キラリと、その場に居たくの一達の目が光ったのだった。


                       ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆


「カカシは勿論そのつもりみたいだけど。今の所はまだ、単なる同居人らしいの。」
 だからそれを知ったくの一達がカカシを狙って動き出したのね

「どうやらカカシの奴、イルカ先生の料理の腕に惚れたらしいから。」
 そう楽しげに笑う上忍くの一に、あら…と大袈裟にサクラは驚いて見せる。対してナルトは

「イルカ先生料理巧いってばよ!」
と、思いっ切り焦点のずれた反応を返す。…ま、そんなモノだ。

「まだくっ付いていないなら入り込む余地は有るってね。」
 皆、イルカ先生のいない好きに餌付けしちゃおうって必死なのよ

「あ〜成る程。」
 うんうんと頷くサクラと目が合った紅は、その中に自分と共感する物を見て取り…二人してにんまりと笑う。
その様子を何処か薄ら寒い思いで男子達は眺めていた。

「でもカカシ先生、食べてませんよね?」
 味見位しても良いのに
 サクラが騒ぎを眺めながらそう呟くと。

「だって『くの一の』手作りなのよ。それこそナニが入ってるか判らないじゃない。」
 とんでもない事をサラリと言って、ころころと笑う紅である。
そして

「あら、ゴメンナサイ。一言多かったみたいだわ。」
 艶治に笑う上忍に、一瞬不思議そうにしたサクラが次にははっとして振り返る。
すると…其処にはサスケが、半眼になって何やら考え込んで居たのであった。






 さて、7班が噂話に興じてから更に数日。
昼時、カカシは今日もまたくの一達の手料理の山に埋もれていた。
和・洋・中。煌びやかな前菜に豪華な主菜。彩りも鮮やかな水菓子までが飛び交って、独身男性達の文字通り垂涎の的だったのだが、肝心のカカシは煩そうに躱すばかりであった。
 大体、イルカの料理に行き着くまでに里の、大概の料理屋…勿論超高級店から屋台まで…の味見は済ませてしまっていたカカシである。
それに彼は、極上の忍び人なのだ。匂いを嗅げば、大体どんな味なのか…そして混ぜ物があるかどうかだって判る。
そして、かなりの確立で薬物反応の有る料理を口にする程、カカシは馬鹿でも無謀でもないのだった。

「はたけ上忍、これを…」
 またもや、気合の入った化粧をしたくの一が手製の弁当を差し出して来た。
それを無視しようとしたカカシは、ふと鼻を掠めた匂いにビクンと反応した。

「ん、んん…?」
 振り返って手に取り。フンフンと鼻を鳴らす…犬の様なカカシに、皆が固唾を呑んで見守る。すると、何処からとも無く割り箸を取り出し…
ぱくっと一口、煮物を口に入れた…らしい。覆面をしたままなので不明だが、確かに煮物が少し減り、代わりに覆面の頬の部分がもごもごと動いた。
わおぉぉ…と驚きとも非難ともつかぬ声が沸き上がる。そんな中、むぐむぐと其れを味わっていたカカシが。次の瞬間、クワッと眸を見開くと
凄まじい勢いで弁当を食べ始めた。

 どよめく、周囲。そして頬を染めて可愛らしくポーズを取ってそれを見詰める…当のくの一。
衆人環視の中、カカシは一切を気にする事無く覆面をしたままでガツガツと食べ続ける。そして、あっという間に弁当を空にした。

「ふぅ…」

 久方振りに満足して。幸せそうな溜息を付いたカカシである。そしてくるりと振り向くと傍らにいたくの一の腕を掴み

「コレ、持って来たのアンタ?」
 と、真顔で尋ねた。

「は、はい!お口に合ったようで良かったですv」
 それはもう、可愛らしく微笑んでみせる彼女に。皆…個人の想いは別にして…手に手を取って二人の世界に旅立つものと、思った。

 が。

「で、イルカ先生は何処?」
「え…」
「この弁当、作ったのはイルカ先生でしょ。ならアンタはイルカ先生の任地を知ってる筈だ。」
 それもそんなに遠くない所だよね この弁当、冷凍してないのに全く痛んでないし

 淡々と。穏やかにすら感じらる口調で問う、カカシ。だがその手は決して離れようとはせず、寧ろ少しずつ力が篭められつつあった。

「ちっ違…」
「嘘吐かないでよね。この俺が、イルカ先生の手と他人のモノの違いが判らない訳ないでしょ。」

 少しも感情の篭らない声なのに、途轍もなく威圧感があるのは何故だろう。

「大体、弁当作って貰って来るなんてアンタ、イルカ先生とどう言う関係?」
 話に因っちゃ俺にも考えがあるよ

 うっそりと、覆面の下で笑うカカシの。指に更なる力が加えられて行く。

「っ、言いますっっ言いますからっっ」

 骨も砕けんばかりの圧力に、とうとう耐え切れずくの一が悲鳴を上げた。

「…それで?」
 低い、声。

そして、人々の狭間から銀の影が消える…





「イルカ先生〜!」
 唐突に跳び付かれて、イルカはもんどりうって倒れそうになる。

「カカシ先生っっ」
 どうにか踏み止まったイルカの怒りを含んだ声に。

「ご、ごめんなさいっ。だって久し振りだし…」
 ごにょごにょと。背中に張り付いたまま言い訳をする上忍が居る。

「それで、どうしたんですか?今日は下忍指導の方は?」
 カカシを背負ったまま、且つ手を動かしながらイルカが訊ねると。背中のカカシが

「今日は任務早くに終わったんで、半休にしました〜」
 ゴロゴロ… 今にも喉を鳴らしそうな様子でカカシが告げる。
あの後カカシは、上忍師の騒動に巻き込まれぬ様離れた処で食事をしていた自分の部下達を駆り立て。その上で自分も参加して超高速でその日の任務を終わらせたのだった。

「そうですか。」
 その言葉に、イルカも苦笑する。
任務を終えたなら文句を言う筋合いも無い。…里長に文句を言われる程遠くに来た訳でも無いのだし。
そう、イルカの『長期任務』は。里内の演習場…但し死の森…の中で、行われていたのだ。



「に、しても。酷いです、イルカ先生〜」
 こんな近くに居るなら教えてくれれば良いのに

 ぶつぶつと呟く上忍は、イルカの手元を睨み付けている。何故ならイルカは今、料理の真っ最中なのだ。
美味しそうな匂いをさせる大鍋に、此処暫くの食事の惨状を思い浮かべた上忍が非難じみた眼を向けている。

「駄目ですよ。任務は任務です。ちゃんと守秘義務があるんですから。」
「…う〜…」
 穏やかに宥められて、カカシが唸る。理性では判っているのだ。でもそれを認められるか、は別であった。

「でも、御免なさい。不意打ちみたいに出て来たから、大変だったでしょう。」
 一応、あれだけの用意はしたけれど 本当はもっと早くに戻れる予定だったんです
 クツクツと煮える鍋から灰汁を掬いながらイルカが謝罪する。実は今回の任務、期間に関してはイルカとしても寝耳に水、だったのである。

「実は俺、毎年この実習の裏方やっているんですよ。」
 任務が任務だけあって、ちょっと色々条件があるもんですから
 小皿に少し汁を取り、味見をする。そして塩を少々加えると再び煮含め始めた。

「此処で何をやっているのかはご存知ですよね?」
 眇めた眼で見ながら訊いて来たイルカに

「あ〜、上忍研修ですよね。」
 カカシは、あっさりと答えた。
上忍研修…正確には『対上忍昇格試験用研修合宿』。上忍試験を希望している特別上忍と中忍の為の勉強合宿なのだ。
此れに参加して、成績が良ければ上忍昇格試験の推薦が受けれる事になる。つまり、上忍への近道なのだった。

「試験の推薦を受けたくて頑張る分、ストレスが溜まり易いみたいで…」
 下手すると、裏方に来た試験を受けない中・下忍は八つ当たりを受ける事になるんです でも食事用意や掃除なんかの下働きに、上忍の方々を使う訳にもいかないですし

「な…っっ」
 さらりと言われた言葉に、カカシは泡を食う。そんな、馬鹿の憂さ晴らしでイルカにもしもの事があったら…
不穏な想像に蒼褪めたカカシは。それに続いたイルカの

「だから。もし無体を仕掛けられても、逃れられるだけの能力の持ち主しか裏方に出来ないんですよ。」
 と言う台詞に、絶句した。

「殴り掛かられたり、押し倒されたりしても自力脱出が可能で。その上で研修に参加しない、極一部の中忍が下働きに呼ばれるんです。」
 表向きのランクはDだけど、実際はBだし 何より自称とは言え『上忍候補』と遣り合う事になりかねないから、任務報酬も良いし

「躱し切る自信さえあるなら良い任務、なんですよ。」
 にっこりと、悪びれもせずイルカが言う。

「ただ例年は、俺と同じように腕っ節は在るのに昇進する気の無いヤツがもう一人居て。そいつと交代で『寮母さん』してたんですけど。」
 そいつ、この一年の間に結婚したらしくて 今年は『参加者』になっちまってて

「いつもなら一週間で済んでいた任務が倍になっちゃったんです。」
 どうにか、期間中賄えるだけの弁当は作って置きましたけど 余り手間掛けていられなかったから品数が少なかったでしょう
 そう、締め括ると。イルカは鍋の中身を小皿に取った。そして箸を添え、口を開こうとしたカカシの目前に差し出す。

「で…んな…」
 でもそんなアブナイ任務…と言おうとしているらしいのだが、出来立て熱々の煮物に阻まれて良く発音出来ていないカカシに。

「大丈夫ですよ。その辺りの自己制御も研修の一部ですから。」
 無体を働かれそうになったらすぐに監督官の上忍に通報出来る様になってます 後は上忍が助けに来るまで逃げ切るだけです

「それに、そうなったら即失格で、帰されちゃいますから。」
 事前にその説明もちゃんと受けていますし 皆、余程の事がなければキレたりしませんよ?

 手早く、大鍋をフライパン代わりに炒め物をしながらイルカが応じる。どうやら今夜の献立は豚の生姜焼きと菠薐草の御浸し、根菜の煮付それに豆腐の味噌汁らしい。
てきぱきと働くイルカに食べるだけ食べてしまったカカシはあ〜だのう〜たのと呻いていたが、やがてハッと思い言い出した様に

「イルカ先生!あの女とは一体、どんな関係なんですっっ」
 と叫んだ。

「あの女?」
「アンタの手製弁当を持ってたオンナですっ!!」
 喰い付かんばかりの様子で喚く、カカシ。

「あ、あの方ですか。」
 やっぱり、カカシ先生に差し入れたんですね
 するとイルカは、僅かに口の端を上げて笑った。

「あの方は伝令としていらしたのですが…すぐに戻られず、俺に手伝いを申し出て下さって。」
 なのに掃除だの片付けだのはしたがらないで 食事の支度ばっかり気に掛けていらして

「だから一緒に作る事にしたんですけど。」
 作るより俺の手元ばっかり見ていて でも俺の料理って大概目分量だから今一つ、良く判らなかったらしいんですよ

「それでその日はお帰りになったんですけど。翌日また、大した用もなかったみたいなのにまたいらっしゃって。」
 昼時だけど食べて行く時間がないから、今日の昼飯を弁当に詰めて行く…と言い出されたんです

「だから弁当に仕立てたんですよね。」
 でもなんか可笑しいと思ったんですよ 多分、自宅で試作して…失敗なさったんでしょうね
 イルカがそう、呟くのに

「そうだと思いま〜すっ。だって弁当ン中、イルカ先生の料理しか入って無かったから。」
 手を上げてお返事するカカシである。

「詰め替えて女の弁当らしく見せ掛けてはいましたけどね!でも、ちゃんと気付きましたよ、イルカ先生の料理の匂いでしたからっ」
 ちょっとムキになって主張するカカシだった。そうでなければそもそも見向きもしなかったのだ、と懸命に訴える。

「はい、判っています。カカシ先生は鼻が利きますもんね。」
 それに対して、イルカは。何処か満ち足りた笑みを浮かべてつつクスクス笑う。

「そう言えば、カカシ先生。二食共彼女から貰ったんですか?」
 唐突に訊ねられて。

「…ハ?」
 間抜けな声を上げたカカシである。

「彼女、多分帰ったら忙しいからって。作り置きの惣菜なんかも漁って、弁当二つ持って行かれたんですよ。」
 お陰で夕食用に仕込んで置いた芋サラダとか足りなくなっちゃって 慌てて作り足したんですから
 と、イルカが付け加えると

「…あの、オンナ…っっ」
 何処かにイルカ先生の弁当、まだ隠してるっっ

 そう、低い唸り声を残して。イルカの前から上忍が、姿を消す。

「あ、カカシさん!…と、まぁ良いか。どの道明日には帰るんだし。」
 それに小さく肩を竦めるイルカである。
 研修日程は今日まで。明日は朝食前に解散する予定となっている。

「でもこれで結構纏ったお金も入ったし…うん、良いモノが作れそうだな。」
 そしてにんまりと、人の悪い笑みを浮かべる。
人手不足なのは確かである。だが、此れだけの条件があって、初日っからキレる人間なんか居ないのだ。
だから実際に危険なのは、一週目の終り辺りからで。つまり、イルカは最初っから居る必要はなかったのだ。
 なのに、上に要請されるままに二週間居続けになって居たのは。
ずばり『金の為』なのであった。
 イルカとて色々と多忙な身。それなりの給金は貰っている。同年代・同階級の面々と比べるならば確実にイルカの方が多いだろう。
なのに態々『稼ぎ』に出たのは…

「もう直ぐだもんな、カカシ先生の誕生日。」
 今回はちょっと奮発して波の国から直送の、新鮮なサンマを手に入れる予定なのだ。本当は高級料亭にしか行かないそれを、伝を頼りに横流しして貰える様交渉したのである。
だから今回は塩焼きの他、刺身やサンマのわたなますなんかも加えるつもりだった。勿論茄子も高級茄子を一緒に分けて貰って、味噌汁の他に田楽や浅漬け等取り揃える予定だ。
 …ので、ちょい懐が寂しかったのである。
だから受けたのだ、この任務を。短期で危険性も…イルカとしては…少なく、丁度うってつけだったのである。

「あ、でも。ケーキ位は用意しといた方が良いかなぁ。」
 あの人、ホールケーキを切り分けるなんての好きそうだし
 一人きりとなった食堂で。せっせと配膳の用意をしながら、一人楽しそうに悩むイルカであった。





「結局、らぶらぶなんですね〜あの二人。」
 一月程の後、受付所。
 当人達の自覚は兎も角、今日もいちゃいちゃと夕食の献立を話し合う現上官と恩師の姿に。サクラが結構楽しそうな様子で、傍らに立つ美女へと話し掛ける。

「そ。『関係』なんてどうでも良いのよ。」
 あのカカシが 手作りの物毎日食べて、横で眠ってるって言うだけでもうどうしようもない位癒着してるって事なんだか

「今更餌付けなんて出来るモンですか。」
 浮かべられた冷めた笑みは、哀れな挑戦者達への物だ。
くの一ならそれ位見抜くのは簡単だったろうに、下忍のサクラでさえもが気付いたそれに、敢えて眼を背けていた…彼女
恋心、ならば切ないが…物欲その他が基盤となった『想い』では同情するだけの気力も沸かない。

「ばカップルには好きにしていて貰いましょう。」
 進展するもしないも、ね

 やってられない、とばかりに結構投げ遣りな様子で語られた紅の言葉に。サクラは勿論、後ろで漏れ聞いていた7・8班の面々までもが…

深〜く、頷いたのである。



えんど 



 オマケ



「イルカ先生、来年もコレやる気なんですか?」
 しっかりと弁当を回収して…どうやら『研究』の為自宅に取ってあったらしい。良くゴミにされていなかったものだ…戻って来たカカシは、
担当官に話を付けて(脅す、とも言う)夕食を分けて貰う事に成功した。
 皆はもう、食事を終えて自室に戻っており。今食堂には、後片付けの関係で遅れて食事を取ろうとしていたイルカしか残っていない。
つまりカカシは、久方振りにイルカと二人っきりの夕食vを満喫していたのである。

「はい。俺がやらないと本気で上忍の方を割り振らねばならなくなりそうなんです。」
 にこやかに、真実をイルカが言う。但し期間の方は融通出来ると言う事は、内緒にして置く。また来年も物入りになるかも知れないのだし。

「そう…。だったら来年は俺っ、監督官に立候補します。」
 もぐもぐと豚肉を租借しながらカカシが宣言する。

「それならずっと一緒に入れるし、イルカ先生の事も護れます!」
 部下達も一・二週間なら離れてても大丈夫だしっ 
 そうカカシが、握り拳で主張する。その一生懸命な様子は、何処か子供じみていて…イルカの目には随分と可愛いらしく映っていた。
だから

「そうですか。じゃあ来年は宜しくお願いします。」
 素直にピョコンと頭を下げる。

「あ、はいっっ」
 それに、思わず姿勢を正して応えてしまうカカシである。そして、暫しの間。

 やがて二人は、顔を見合わせて。
フフフフ…と幸せそうな笑い声を立てたのであった。



 終



「天手古舞」のちゃきっ様よりカカシ先生誕生日記念のフリー作品を頂きました。
素晴らしくよくきく嗅覚と味覚を持ったカカシ先生です(笑) ちゃっかりと稼ぐイルカ先生もイイ感じです♪
どうもありがとうございました!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送