ホントのお話
 〜 Lonesome Peple 〜




「オレ、ウサギだから……サビシイと死んじゃうんです」

───だから、一緒にいてクダサイ

───優しくしてクダサイ

 そんな脳の足りない台詞を、自分に言ってくる男がいる。
 20数年生きてきて一度も思いもしなかった状況に、うみのイルカは言葉を失った。
 まず自分は男で、どう間違っても女の代わりにしようって思う野郎がいるはずもない体格をしている。
 ただ、男が好きな男の目にはどう映ってんのかは分からない。なので、それは脇へ置いておこう。良し、とは思えないが。
 次に、何年か前のドラマの主人公のように、ウサギは淋しいと死んでしまうとか、自分はウサギみたいだとかってトコロ。
 なにをどうツッコんでものか。いや、突っ込みたいのは、向こうか。
 一つ、分かるのは。
───……コイツ、バカなんだなあ……
 確実にそう覚ったが、口にも態度にも出すわけにはいかない。
 なんと言っても、イルカにこんな頭の悪いことを言ってきやがったのは、はたけカカシだ。
 木ノ葉隠れの里が誇る上忍、写輪眼のカカシ。
 わずか6歳で中忍となり──つまり一人前の忍者と認めらたエリート。
 千の技と写輪眼を駆使し、他国の重要手配書に名を連ねる強者。
 そして、イルカが教え育ててきた大事な生徒たちの、上司兼担当教官である。
 行き逢えば親しく会話を交わす間柄とはいえ、無礼な振る舞いはできぬ人だった。
 だからと言って、素直にその申し出をうけられるワケでもない。
「ね、イルカ先生」
 二人きりの部屋で向かい合い、きっちと正座をしたカカシが真っ直ぐに見つめてくる。
 いつもの、必要以上に胡散臭く見せている斜め掛けの額当ても口布も取り払った素顔は、優男というには精悍。
 銀の髪から覗く夜空のような黒味がかった青い目というのは、それだけでキレイなもので、その気はなくても見惚れるほどだ。
 色の違う片目と傷は、彼の容姿を際立たせ彩りはするが、決して魅力を損なわせない。
 そんな顔に穏やかで余裕のある笑顔を浮かべ、甘える口調でねだってくる。 なのに声は意外と真剣で、ついうっかり絆されてしまいそうだ。
 さっきの発言さえ、なければ。

───オレ、ウサギだから……

 どっからどう見ても人間でしかない男は、そう言った。
 確かに色合いは、白くて目の赤いウサギみたいだと、言えなくもない。左半身だけ。
 けれど、カカシにはあのふわふわ感やもふもふ感、長い耳やぴくぴくの鼻といった可愛らしさは何一つありはしなかった。
───そうツッコんだら……
 と、思いかけ、やめた。
 言ったら最後、変化の術でそれっぽくなってみせるかもしれない。
 ヘタをすれば、バニーボーイなんて珍妙な姿を見せられる可能性だってある。
 まあ酒の席の余興なり罰ゲームなら思いっきり笑ってやれる。だが、二人っきりのこの状況では願い下げだ。笑い話にもならない。
───ウサギ、ねえ……
 固まったまま、イルカは頭を巡らせた。
 これまで培ってきた経験と知識の中から『うさぎ』に関わる部分を反芻する。
 げっ歯類で穴居性で、もちろん野生動物だから1匹で居たって寂しさで死んだりはしない。 土手や畦を穴だらけにするし、農作物を食い荒らすから、人間にとっては害獣である。 当然、狩りの獲物であるし、食材としてもよく使われる。
 毛皮や毛糸を得るために飼育されている家畜でもある。あと、愛玩動物として飼育されてもいる。
 確か、国外では幸運のお守りとして、切り落とした尻尾か左後足を持ち歩く風習があった。 中でも白ウサギは復活と豊饒の象徴、らしい。
 里が誇る上忍の足はそう簡単には切り落とせはないだろうが、ご利益はあるような気がする。 とゆーか、それだけの実力があればいいな、と。
───うーん……でも、そーゆー趣味も実力もねえしなあ……
 第一、尻尾ってドコだよ。
 自前でツッコむ暢気さを取り戻しながら、イルカは思考を進めていった。
───そういやあ……
 キレイでグラマーなお姉さんたちが、素晴らしいボディを惜しげもなく拝ませてくださるありがたい雑誌のマークが、ウサギだ。
 アレは、年中繁殖が可能で結果的に多産なので、安産や子宝のシンボルにもなっている。 それぐらい精力絶倫な生き物に肖って……という意味だそうだ。
───……いっそ、そっちからアプローチしてくれりゃあなあ……
 目的が一緒なら、潔くしてくれたほうが対処しやすい。なびくかどうかはともかくとして。
 とにかく、今のイルカにはこのウサギ上忍を飼うつもりは微塵もない。
 居座られるのも勘弁して欲しい。
 何しろ、ウサギは躾ができない。
「カカシさん……」
「なぁに、イルカせんせ?」
 駆け引きを楽しむ、期待に満ちた目が見つめ返す。
 どんな返事も、自分の思うようにコトを進めていける自信があるのだろう。
 だが、イルカとて伊達にアカデミー教師をしているのではない。 突拍子もない言動をしまくる子供の相手は得意なつもりだ。
「ウサギも反芻するんですよねえ?」
「へ?」
 突如、カカシの口説き文句から飛躍した言葉を投げてみる。
「草食動物ですからね。まあ、牛みたいに吐き戻すワケじゃないらしいですけど」
「……はあ」
 案の定、カカシはため息まじりの生返事。
 気は削がれてくれたようだが、けれどヘタなことを言えば揚げ足をとられかねない。 細心の注意を払いながら、それでもイルカは一気呵成に言い切る。
「自分で最初の糞──盲腸糞っていうのを舐めとって、もう一度消化して排出するって聞いたんですけど……カカシさんがウサギってことは、」
 そこでわざとらしく言葉を切って、可哀相なものを見る目をカカシへ向けた。
「そういう、ご趣味だったんですねえ」
「………」
 もはやカカシに返す言葉はない。
 イルカに促されるまま、ぼんやりと部屋を出て行かされた。

   * * * * *

 それから───
 相変わらずカカシはイルカにまとわりついている。
 あの手この手を使い、なんとか取り入ろうと頑張っていた。
 何を気に入ったのか、カカシは本気でイルカを口説き落とそうとしているらしい。
 そして、木ノ葉隠れの里では、このネタで遊び歩く上忍が減ったのだった。





「Nartic Boy」の蛙娘。様より『「サビシイウサギ上忍」ネタのあるサイト』ならばということで頂いて参りました。
当方あんなツメの先程の小話だったにもかかわらず、ウサギ上忍メイトに入れて頂きどうもありがとうございました!(笑)


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