呼び出しを受けて、もう通い慣れた感のある通路を会議室へと向う。
軽く扉を叩くと、中から女性の声がどうぞ、と入室を許可された。
 それに促され、中に一歩足を踏み入れた途端

「え?サスケ君?!」「サスケ!」
「ナルト、サクラ。」

 …それは、久方振りの再会だった。



「今回の面子はこの3人か。」
 『中忍3名』と明記された依頼書を片手に、サスケが呟く。
「Bランクだし妥当だってば。」
 それにすっかり背も伸び、少しは態度も落ち着いて来たナルトが応えた。
同じ里の仲間とは言え、もう随分と顔を合わせていなかったのだ。それが行き成り同じ任務と聞いて、はりきっているのが丸判りである。
「でも私、同年代だけでって任務は初めてだわ。いつもはベテランが誰か一人は付いていたもの。」
 それにすっかりと女性らしくなって来たサクラが、細い眉を顰めた。すると
「俺もだってばよ。」「…俺もだ。」
 それに、残りの二人も同意する。
「え?じゃあ、もしかして。」
「…ああ。」
 サクラの疑問にサスケが重々しく頷く。
中忍になってもう2年目。スリーマンセルもとうに解散となっていて、昇格して尚護ってくれていた上忍師とも最近は顔を合わせていない。
そろそろ『上』から見ても独り立ちを考えられる時期、なのだろう。

「?何を言ってるんだってば?」
 怪訝そうな顔をするナルトに
「つまり、私達『だけ』でもBランクがこなせる程度まで能力が上がったかのテストかもしれないって事。」
 何時までも保護者付きって訳にも行かないでしょう 中忍は部隊長クラス、なんだから
「この任務の出来次第で、そろそろ『一人前』として認めてくれる気なのかもしれないって事よ。」
 サクラが丁寧に説明する。相変わらずこう言う察しは悪い様だ。
だが彼は任務…特に戦闘に関する直観力には定評がある。仲間を大切にする事もあって、昔程敵視する人間もなくなって来ているらしい。
「へへっそれなら望む所だってばよ!」
 納得したナルトが、鼻の下を擦りながら宣言する。相変わらず向上心は有り余っている様子だ。
だが、それは残りの二人だとて負けていない。

 兎に角、と。任務内容と、それに対する装備を確認し待ち合わせ時間を決めると解散する。
懐かしい面子との、遣り甲斐のありそうな任務。
心が逸るのは致し方なかった。





 任務は密書の輸送。
木の葉と長期契約を結んでいるとある企業の新規開発製品のデータ…らしい。詳しい事はこちらにも知らされない。
忍の任務なんてそんなモノだ。
 木の葉に程近い研究所から本社まで、忍の足で3日程。3人は体力に合わせて休憩を取りつつ進んで行った。

「この任務が終わったら、単独任務とか来る様になるんかな?」
 任務2日目。
 広い森の中で夜を迎えた3人が夜営の用意をしていると、ナルトが訊ねるとも無く言った。
「そうね、すぐには無理だと思うけどその内には来るんじゃない?一段階上がる事は確かだと思うわよ。」
 手を動かしながらのサクラの言葉に、そうだよな、とナルトが小さく呟く。
その、らしくない様子に。
サスケは僅かに眉を寄せると、問い掛ける視線を投げた。

「俺、目標があったんだってば。」
 間を置いてぽつんと吐き出された、言葉。
「俺さ、何時か単独任務が出来る位強くなったら。最初の報告は絶対イルカ先生ん所って決めてたんだ。」
 そんでその報酬でイルカ先生に一楽のラーメン奢ろうって

「そしてら、本当の意味で一人前になれる気がしたんだってばよ。」
 何処か遠い瞳で、ナルトが静かに呟く。
「まさか、イルカ先生の方が先行っちまうなんて考えもしなかったんだってばよ!」
 一転、明るく言って笑うナルトの、表情に僅かに混じる自嘲の色に。
「う〜ん、確かにイルカ先生って受付似合ってたものね。」
 サクラが軽い調子で応えた。
 ナルトの想いは、実は多かれ少なかれ『元生徒』達皆が感じていた物で…
だからこそ明るく笑い飛ばすしかない。
 そうなるまで全く自覚していなかったが、彼等にとってあの『先生』の姿こそがそのままアカデミー時代の象徴だったのだ。
故に『上忍』となった先生には、未だ微妙な違和感が付き纏っていた。
当人がどれだけ優秀な人材か、身に沁みて判っているにも関わらず…だ。

「何処に居ても『先生』って気がする。」
 それに。ぼそりとサスケが続き
「あ、それは言える!イルカ先生はイルカ先生以外にならないって!」
 ナルトがうんうんと頷いて同意を示す。
「そうね。上忍になって随分経つのに今だ皆イルカ『先生』って呼ぶもんねぇ。」
「…サクラ、イルカ先生と最近会ったのか?」
「ええ。この間の任務で。」
 苦笑しながらのサクラの言葉に
「あ、ズルイってばよっ!!」
 ナルトが文句を言い出し。
「あら、私よりシカマルとかシノの方が…」
「ええっ!?」
 シカマル達の話から同期の近況報告へと話は流れて行ったのだった。


 携帯食での夕餉をそれなりに愉しむと皆は交代で休みを取る事にする。
きちんと休憩を挟んだとしても一日中走り続けていればどうしても疲れは溜まる。それに体力の有り余っているナルトとサクラで疲労度が違って来るのは当然なのである。案外、その辺も考えての組み合わせなのかもしれなかった。
『…ナルト、サクラ。』
『判ってるわ。』『おう。』
 大地や樹に溶け込む様にして仮眠を取っていた3人が、身動きせぬままに言葉を交わす。
『3人だな。』
『上忍クラスだってばよ。』
『間違い無く狙ってる、わね。』
 如何にも眠っている様に擬態しながらの、確認。
『サクラ。』
『判ってる。』
『俺がやるってば。』
 穏行、一番下手だしな
『サスケ。』『ああ。』
 細かい事は言葉にしない。だが、互いに判っている。
些か間が空いたとは言え、長い付き合いなのだ。長所も短所も、こんな場合どう行動するかさえ読めてしまう。


 月が隠れた間を縫って、唐突に影が襲い掛かる。だが
「!」
 唐突な、爆発。
起爆符に拠る物と思しきそれに紛れて三方に、散る者達。それを慌てて襲撃者が追った。
中忍とは思えぬ速さで駆けて行く3人に上忍も中々追い着けない。ぐんぐん距離が開いて行く。

 と
「サクラ。」「ええ。」
 むくりと身を起こす2つの影。それらは泥を払う間も惜しい様子で走り出した。
爆風で視界が隠れた僅かな、間。
その隙を突いてナルトは影分身と変化を行い、ばらばらに走り出したのだ。そして残りの2人は土遁で地中に潜り、気殺して彼等が去るのを待っていた。
だがこの時間稼ぎも長くは持たない。幾らナルトのチャクラが人より多くても、距離が開けば維持は難しくなる。
だから2人は少しでも距離を稼ぎ有利な条件を作るべく、走り出したのだった。
 幸い此処は森。どの里の忍よりも『木の葉』の名を冠する彼等に有利な筈である。
「1人…」
 サスケが呟く。
どうやら他より早くナルトの分身に気付いた輩が居たらしい。追い縋る気配に、サスケは交戦の覚悟を決める。
サクラに目をやれば、前を向いたまま小さく頷いた。
 幸い、他の気配はまだ無い。そしてサクラはチャクラコントロールと幻術に優れていた。身を隠しつつ任務を達成するのには適しているだろう。
そして自分はナルト同様、戦闘向きの忍だった。
喩え相手が上忍であっても早々遅れを取る気は、無い。
 サクラが幻術印を組む。
目眩ましに敵が掛っている間に先手を取る心算だった。

 幻の中、切り掛ったサスケのクナイを巨漢の敵は力技で退けた。弾かれたサスケに向って敵のクナイが投げられる。
だがそれを木の葉瞬身で凌いだサスケが、再び挑んだ。
跳んで逃れた相手を影舞葉で追尾し、獅子連弾を仕掛ける。
だが流石と言うべきか…止めを刺す前に体勢を整えられ、不発に終わった。
間を空ける事無く、体重と力の差を速さで補ってサスケは仕掛け続ける。
敵は『3人』居た。ナルトの状況が判らぬ以上、単身進んでいるサクラの事を考えると余り時間は、無い。
だが今は、焦らず確実に敵を倒す事こそが必要だった。
 続く攻防。木々の多さが互いの術を阻害する為専ら体術の応酬となった事がより戦びかせる。
「チッ…」
 この先を考えて体力を温存していたサスケは、思った以上の力量を持つ相手に遂に奥の手を出す事にした。
「!写…」
 敵の叫びは、言葉になる事無く消えて行く。
動きを『読んだ』サスケの一撃が、敵を葬り、勝負はついた。
そして
 一つ、深呼吸して。気を静めたサスケがサクラの後を追おうとした時だった。


「腕を上げたな、サスケ。」
 突然の声に、反射的に身構える。と、唐突に人影が現れた。
戦闘で気は研ぎ澄まされて居る筈、なのに何の気配も感じなかった。背筋に冷たいモノが走る。
「済まん、驚かせたか?」
 が、その影は少し笑いを含んだ声でそう言って『合言葉』を口にする。
木の葉のそれに、落ち着いて確認して見れば。それは間違い無く懐かしい…つい先刻まで話題となっていた人の物であった。
「イルカ先生…?」
 構えを解かぬまま問い掛けるのに
「正解。新情報が入って、な。」
 あぁ、ナルトも一人倒したぞ 今はサクラに付いてる
「お前が倒した奴で最後だ。行くぞ。」
 イルカの言葉に、もう1人は…とは訊かなかった。イルカから微かに漂う血臭がそれを物語っていたからである。
「先生、情報とは…」
「待てよ。ナルト達と合流が先、な?」
 そう言って。
悪戯っぽく笑う顔は昔…まだチャクラも碌に練る事が出来なかった彼等に、基礎の基礎を丁寧に教えてくれた時のままであった。





「で、なんだったんだってばよ?」
「そうです、教えてください。」
「・・・・・」
 届け先である『本社』の在る街を出て、3人はイルカに詰め寄っていた。
 結局、合流したらしたで『任務が先』と誤魔化され。何も聴けないままで本社まで駆ける事となったのである。
だから密書を無事渡し『任務成功』となった今は容赦無かった。イルカを取り囲む様にして、訴える。
「あ〜判った。だが一つ言っとくが。」
 聞いたらその瞬間から関係者だからな 逃げる事は許さんぞ
 イルカの、脅しとも取れる言葉に3人して顔を見合わせて。それから
「構わないってば。」
「覚悟してます。」
「聞かない方が体に悪い。」
 口々に答える。
するとイルカは小さく笑って…説明を始めた。


「『密書』の運搬ルートが洩れてた?!」
 押さえた、だが裏返った声はサクラの物。
「ああ。しかも、それを洩らしたのは依頼人だ。」
「な…」
「それって…」
 絶句した3人に、イルカが言葉を続ける。
「実は、裏が有ってな。」
 つまり、木の葉に『依頼』を出していた本社の、総務関係の部長が他里から多額の裏金を貰っていたのだと言う。
「で、部長は見返りにその里に取引先を変更したかったんだが。」
 何も非が無いのに急に変えれば不審を買うだろう
「向こうの方が確かに依頼料は安く設定していたが、ウチには実績があるからな。」
 大手程そう言う面では信頼を重視するから、幾らそのテの交渉を一手に引き受けていた責任者でも早々無理は出来なかったって訳だ
「だから、先ずウチの仕事にケチを付けて」
 それから上に話を持って行く事になった、らしい
          失敗
「俺達がその『ケチ』になる予定だったんだな。」
 サスケの低い声に
「ヒデェ…」
 とナルトは呟き、サクラは言葉も無く唇を噛んだ。6つの瞳が悔しげに光る。
「そうだ。だが、お前達のお陰で任務は成功したし襲って来た相手も捕まえる事が出来た。」
 さっき暗部が回収に来たからな 今頃、イビキさん達が証言を取って居る筈だ それに裏付も取れているしな

 淡々とした報告。しかしそれは、イルカがあの上忍を『尋問可能』な状態で捕獲したと言う事に他ならない。
僅かな接触時間でしかなかったが、あの敵は全員決して腕の悪い相手ではなかった。
つまり彼等が手間取ったあの輩と、イルカの間にそれだけの力量差があったと言う事で…

 少しだけ凹んだ彼等を尻目に
「遠くない内にその部長は背任容疑で処分される予定だ。」
 と、イルカは言葉を結んだ。それに皆の表情が少し明るくなる。
と、其処に
「更に。企業の上層部では今回の事件を重く見て、社を上げての内部監査を敢行する事にしたそうだ。」
 そしてその件を全て木の葉に依頼してくれる事になった
 妙に重々しく…付け加えた。



「へぇ、大口依頼だってばよ。」
 とのんきに言ったのは、ナルト。
サスケとサクラはと言うと、不吉な予感に顔を引き攣らせている。


 内部監査の裏付調査。
この嘗ての師は、そう言えば頭脳関係の仕事を得意にしていたのだと今更に思い出す。
人当たりが良く、且つ戦闘能力もきちんとある上忍。しかもイイ性格をしている。
潜入調査にはぴったりの人材なのだ。そう考えるとこの、『新』情報の入手先も読めて来る。
自分の『任務』の一環として此処にやって来た、と言う訳なのだろう。
 …そして多分

「あの…イルカ先生?」
 恐る恐る、サクラが呼び掛けると
「おお、やっぱり気付いたか。」
 ばっちり働いて貰うからな サクラ、帳簿見るの得意だろう サスケ、ナルト 裏付調査頼んだぞ

 予想通り、嬉々として言い放つ…イルカに。
「ええっ!」
「やっぱり…」
「・・・・・」
 ナルトは叫び、サクラはがっくりと肩を落とし…サスケはと言うと声こそ上げなかったが、眉間に深い皺を寄せた。

 何度も念を押したのはやはり、罠だったのだ。
…此れから増加するであろう任務の為の、人材確保の。
 サスケ達に回るのは容疑者の素行調査等だろうが、いずれにしても只管に地味な仕事が続くのは間違い無い。
そのテの任務に一番向いているサクラとて、毎日帳簿と睨めっこなんて嬉しい訳が無かった。


 露骨に嫌そうな顔をする彼等に
「言っただろう、聞いたら関係者。逃がさないってな!」
 晴れやかな笑顔で、高らかに宣言する『恩師』。

それに3人は…まだまだ敵わぬ自分達を実感したのだった。



 終



「天手古舞」のちゃきっ様より一周年記念作品を頂きました。
イルカ先生がシビアな恩師…というより上司です! にこやかに爽やかに面倒ごとを割り振っています(笑)
ナルトたちではまだまだ敵いませんね。どうもありがとうございます!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送