■   沈黙の塔(死者の書・エピローグ)  ■














「・・・・考えてみれば幸せな死に方かもしれないなぁ。少なくともタチバナの死体は遺族に残せる。忍者である限りは許されない死に方だよ。普通は」


その夜も、俺はオビトをテントから追い出し、イルカを引きずり込んで今夜も『仲良く』していた。
イルカのあったかい胸の中に雛鳥のように抱き込まれながら、今夜も眠りに就くまでイルカに寝物語を話してもらう。


「そうですね・・・タチバナ教官の死体はあの女性の元に残りますね。里で死ねば一欠片の骨も残らずに処分されますけど・・・あの空間なら可能かも」




例えば敵の手に墜ちたりすることが忍の死としては最悪だ。
細胞の一つ一つまでバラバラにされ、遺伝子の隅から隅まで調べ上げられて死ぬことになる。
それは人間性への徹底的な陵辱である上に、忍の身体そのものが貴重な術の情報源である事実からも、 忍として最も忌避される死に様だ。
その場合に備え、それこそ骨も残らないように自爆できる符を俺達忍は常に携帯している。
劫火の術に自信のある者は自身を火で焼き尽くして死んだ者もいる。
アカデミーでも一年生の頃から今際の際の身の処し方を叩き込まれる。
死体を敵に渡すことなかれ・・・と。




「ねえ、イルカはどんな死に方が理想?タチバナなような死に方をしたい?」


イルカの鎖骨を舐めあげながら俺は上目づかいに笑いながら聞く。
イルカは暫く思案しながら、「憧れのお葬式ならありますけれども・・・」と言った。




「憧れの葬式?憧れている葬式なんてあるの?へぇーー、どんな葬式に憧れてるの?」

「ええ、実は鳥葬に昔から憧れてまして・・・・」

「鳥葬?チョーソー?何ソレ?」

「はるか西にある古い国にある葬式にそういうのがあるんですよ。 死体を鳥に食べさせるんです」

「ゲゲゲ!鳥さんに食べさせるの?イルカはそんなのがいいのぉ?」

「まあ、聞いて下さい、カカシさん。西の遙かな国の山奥には『沈黙の塔』と呼ばれる 鳥葬のための塔が大小7基もあるんだそうです。円形の塔の屋上には外側から男、女、子どもの 死体がぐるり、と置かれるようになっていて、塔の中央には白骨化した骨が落とせる井戸もあるとのことで。 その井戸はまた良くできていることに底に木炭と砂が敷いてあって濾過層にもなってるそうで。 で、その塔に死体を置いて、禿げタカに食わせる。 その部族民に言わせると火葬でも、土葬でも、水葬でもない、あらゆる環境汚染をふせぐ、 究極の衛生的で合理的な葬儀だそうです。それを理想とする部族もいるんですよ」

「なんでまたそんなのが理想なの?その部族は魂が鳥と共に天に飛んでいく、とでも信じているのかな?」

「ええ、多分そうなんでしょう。人生の最後に鳥に身体を与えるのは功徳だとも信じてるのかもしれません」

「そーいえば似たような話、聞いたことがあるなあ〜飢えた虎に自分を食わせた坊さんの話とか」

「ウサギが自ら火に飛び込んでブッタを飢えから救った話は有名ですけどね。そういうのって結構よくありますよね。慈悲の教えでしょうか? まあ、ただの憧れです。忍の俺には絶対ありえない死に方ですし・・・」

「ふーーん、イルカってやっぱり優しいんだね。イルカのそういう所やっぱり好きだ。 でも、イルカの身体を鳥にやってしまうのは勿体ないよ。鳥にあげるくらいなら俺に頂戴」

「ふふふ・・・なんか怖いなあ〜〜差し上げてもいいですけども俺の死体をどうするつもりなんです?カカシさん?」

「そりゃー勿論、たっぷり死姦した上で、骨まで残らず食べるよ」

「うわーー、怖いなあ。鳥と一緒に天国に飛ぶことは許してもらえないんですか?」

「だーーめ。あんたは俺のモノなの。俺の手の届かない所へ逝くなんて許せないね」

「手、届きませんか?」

「届かないよ」

「届くと思いますよ、あなただって、高く、高く・・・・・」








ああ、イルカ。そんな優しいことを言ってくれるあんたが大好き。

でも、俺はあんたと一緒に飛ぶよりは、飛ぶあんたを捕まえてこの地に引きずり墜とす役割の方が似合ってると思うんだ。

鳥たちに啄まれて、俺の眼球とか腸とかが引きずり出されて細切れにされていくのは悪くない風景かもしれないけれども、 俺の魂はきっとそれでも天に運ばれることはないだろうと思う。

そんなことを口にしたらイルカが悲しむだろうから言わないけど。








「カカシさんはどんなお葬式がいいですか?どういう死に方がいいと思います?」




イルカの上で腹上死がいい、と言うとイルカは嬉しそうに笑ってくれた。




俺も笑いながら、それでもイルカの言う沈黙の塔のことを思った。




そして、其処にひっそりと横たわって鳥に啄まれている自分の死体のことをうっとりと想像しつつ、眠りについた。








酷く安らかな気分だった。




















2004.11.26




2004.11.27
蒼子様より、「死者の書」のエピローグを頂きました。こんなにたくさん…嬉しいですvv
本当にどうもありがとうございました!

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