‖|||‖雪の痕‖|||‖





「あー、もう。何で今頃雪が降るんだよっ」

火影の使いで書簡を届けてきたその帰り道、あと半日もあれば里へ着くというあたりで雪が降り出した。
雪はそのまま降り止む様子も無く、それどころか次第に激しくなってきた。
何度か通った道ではあるが、降り積もった雪の中で歩くのは始めての事で、今の装備では防寒も心許無い。
しかし足を止めていてもしょうがないので、心持ち急ぎながら進み続けると何やら嫌な気配がした。

足を止めて相手の出方を窺っていると、額宛をしていない忍が殺気を纏って向かってくる。同じ里の者でない以上仕掛けられたら応戦せざるを得ない。
何度か小競り合いを繰り返し、なんとか追い詰めて止めをさそうとした時、不覚にも足に毒を食らってしまった。
既に自分のクナイが男の頚動脈を抉っていたから、解毒を問い詰める事も出来ない。急いでその場に倒れた男の装備を探ってみる。
「やっぱり、ない、か」
解毒剤らしきものは見つからなかった。とりあえず腿をきつく縛り毒を絞り出す。
それでもじわじわと痺れてくる身体は、寒ささえ感じなくなってきていた。

――死ぬんなら楽な状態だけどな。

思わず考えてしまったが、生憎とまだ死ぬつもりはなかった。

――くそ、どうする…。

まずは完全に動けなくなる前に雪を防げる様な場所を探さなければ。
ヨロヨロと見回すと、岩が抉れた形の洞があるのに気が付いた。さして奥行はないが、直接雪が当たらないだけでもマシだと転がり込んだ。
効くとは思えなかったが一応手持ちの解毒剤を飲み込んでおく。
倒れたままぐうっと丸くなり、少しずつ歪んでいく視界で降り続く雪を見る。

ああ、もう、何もかも真っ白だ――。









そこを通ったのはだだの偶然だった。
雪で視界が悪くなったから少しだけ休んでいこうと思った。自分の任務は終わっていて、後は帰還するだけだったから。
偶々雪の防げそうな場所を探して適当に選んだ場所に先客がいただけだ。
先客には既に意識がなく、紫色の唇をして丸まっていた。
木の葉の忍でなければそのまま転がしておくところだが、生憎と額宛を見てしまった。同じ里の人間を放って置くわけにもいかない。
しかたなく結界を張り、火を熾して身体を調べると、足に毒を受けた形跡がある。一定の処置が功を奏して毒そのものの効果は切れているようだった。体力の低下と寒さのせいで動けなくなっているのだろう。
と、なると。

あー、柔らかい女ならともかく、男なんて抱きたくないンだけどねぇ。

手っ取り早く体温を上げるには仕方ない。相手の意識がないのが不幸中の幸いだ。
面と自分の上着を脱ぎ、男の服を剥いで抱え込む。アンダーを脱がせる時に額宛と髪紐が取れてしまったが、面倒くさいので放っておく。
二人分の身体を自分の外套で包み、少しずつチャクラを流し込んだ。
はじめは冷えた身体に思わず顔を顰めたが、次第にそれも温まってくる。ヒマなので男の顔をまじまじと見ていると、少しずつ赤味がさしてきた。鼻梁を走る刀傷と、肩にかかる長さの髪。自分よりは年下に見えるから二十歳前後というところか。
眉間に深く皺が刻まれているが、結構整った顔をしている。

はじめに思ったほどイヤじゃないかも。

戯れに頤を掴んで角度を変えてみたり、唇を指でなぞってみたり。
面白くなって、猫のようにその唇をペロリと舐めてみた。
男が少し身じろぎ、瞼が震える。睫毛が薄っすらと開くと、そこから覗いた瞳が黒く潤んでふるふると揺れた。

あ。

もう少し、と思った瞬間また閉じられてしまった。
ゾクリ、と背中に何かが走った。

もう一度見たい。
いや、意思をもって見つめられたい。

突然の衝動に、思わずその肩を掴んで揺さ振らしそうになった。意識のない人間相手にばかなことをしている自覚はあったので、代わりに身体を抱え直す。

トク、トク、トク

たった二人の空間で、互いの心臓の音が伝わる。

男の体温は随分上がったようで、苦しげだった表情も穏やかに変りつつある。
よく見ると、鼻傷に限らず傷が多い。あまり使えない奴なのか厳しい任務が多いのかのどちらか。まぁ、単独で行動してたんだろうから、それなりには使えるというところか。
正直任務のこと以外は興味がないのでほとんどの他人には興味がないし、つきあいもない。
でも、アンタはなんだか気に入った。
暗部仕事の時でなけりゃ、俺の顔を覚えてもらうんだけどねぇ。

ま、こうして助けたんだから痕くらい残させてよ。
「そのうちに見つけるからね」
男の胸、心臓の上あたりに吸い付く。きつく吸い上げて唇を離すと、赤い印がついた。
それに満足すると、一眠りしようと目を閉じた。









暖かい…?
男が瞼を開けた時、小さな焚き火が見えた。
えっ、だ、誰かいる…?
慌てて気配をさぐったが、自分以外は誰もいないようだった。
足の傷を見ると、自分でした手当てとは比べ物にならないほど綺麗に包帯が巻かれていた。痺れもない。
「誰が介抱してくれたんだ…?」
立ち上がってみると歩くのに支障も無く、洞から見た外は雪の止んだ世界だった。知らぬ間に夜を明かしてしまったようで、樹に積もった雪が陽の光に輝いていた。
「きれい…だな」
思わず呟いてから、今の状況を思い出した。
誰かに助けられたのは間違いない。目を覚まして間もなく消えた結界は自分を守るためにあったようだし…。

一体誰が。

礼も言っていないのに…と思いつつ、相手は忍なのだから自らを明かせない者であったのだろうかと考えた。どちらにせよ今に自分には調べる術も無い。
「誰かはわからないが…、ありがとう」

やがて、自分がそこに居た気配を全て消し、男もまたその洞を後にした。

その胸に印を持っている事に未だ気付かないまま。




END



(2004.03.17)

任務中に出会っていましたよ設定。中忍のほうに倒れてもらいました。本当ならありがとうじゃ済みませんね。(「にんむちゅう」って打ったら「忍夢中」と出た。ある意味正解 ←上忍。)



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