夜の鳥





夜中に目が覚めた。
隣に寝る人を起こさないように寝台から抜け出して縁側に出る。
冬の空気はつきんと冷たく、温もった身体からは、あっという間に熱が逃げていく。


濡縁に座ってぼうっとしていると、植え込みの片隅で何やら揺れている。   
(あれは何だっけ…。)

しばらく考えてから、ああ、子供たちが遊びに来た時に戯れに立てていった風車だ、と思い出した。
鳥のかたちをしたそれの羽根がくるくると廻っている。
風が強くなると全体がゆらりと傾く。
必死で羽根を廻しているのに、あれではまるで飛べない鳥だ。

なんだ。
俺と同じじゃないか。
いくら足掻いても飛べない鳥。
あの人から見れば、飛ぼうとしているようにすら見えないだろう。
里で安寧としている人間。
口の端を吊り上げて、自分の膝に額を付ける。
蹲るようにして膝を抱えていると、後ろに彼の人の気配がした。


「冷えますよ」

「すみません。起こしてしまいましたか」
「先生帰ってこないんだもん。いなくなっちゃうのかと思った」

そう言いながら背中に擦りついてくる。その実力とあまりにもかけ離れた仕草に小さく笑む。夜着を通して低いはずの体温を感じるのは、自分の身体が冷えているからだろう。

「何言ってんですか。行くとこなんかないですよ」
「どこにも行かないでね」
「だから、行くとこなんかないって言ってるでしょう」

冷えた縁側で抱え込まれながら、ふたりしてぶるりと震えた。


多分。

自分たちはお互いを求めながらも、決して交わることのない二本の道を並んで歩いている。

道は並んでいる。
けれども。

この人には羽根があって、飛んでいくことさえ出来るはずなのに。


この人が重力に負けるのは俺のせいだろうか。
そのすばらしい羽根を開かないのは。


俺の飛べない羽根が重石になっているのかと思ったら、少し笑えた。


くくっ、と肩を揺らしたら、暗闇で銀色の髪も一緒に震えた。




<END>







薄暗いカカイル。
寒々しい…。

(2004.02.02)






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