優しい夜





 夕食が終わり風呂も済ませた後、持ち帰りの仕事があると構ってくれない人に秋波を送り続けていたカカシだったが、こめかみをヒクヒクとさせ震える拳を握ったイルカの、目一杯の笑顔の迫力に負けて早々とベッドの住人と化していた。

 まだ11月初旬とはいえ朝晩は結構寒い。任務にでも出ていれば気にする事もない程度だが、イルカが傍にいるのに触れられない、ただそれだけのことで肌寒さは5倍も10倍も身に堪えた。
 飼い主に構ってもらえずとぼとぼと小屋へはいる犬よろしく寝室に移り、寝台にもぞりと潜り込んで肩まですっぽりと布団を引き上げる。首から先だけをひょこりと出してサイドの灯りをつけ、いつもの本を開きぱらぱらとページをめくった。

 はー、イルカ先生早く終わらして来ないかなー。
 そしたら今日はあれやこれや…。

 考えながらも溜息が漏れる。想像も楽しいけど、傍に本人がいるのにすることじゃないよね…と、ちょっぴり悲しくなる。イルカのアカデミー教師と言う仕事柄、こんなことは多々あるのだけれど、やっぱり家に二人でいる時にのんびりイチャイチャできないのは淋しい。

 早く終わんないかなー。

 うーん、と向こうでイルカが伸びをする声が聞こえる。後姿が見えると目の毒だからとわざわざ閉めた襖の隙間から漏れる明かり。ちらちらと揺れる影をぼんやりと見る。

 カカシはいつの間にか本を離し、片手枕にそれを眺めていた。
 影絵のように揺らめく影にイルカの存在が主張されているのを見るのは、なんとなく嬉しい。
 どれだけそれを見つめていたのか、トントンッ、っと本を揃えるような音がして我に返ると、居間の明かりがかちりと消えた。
「あー、やっと終わりました」
 首を回してコキコキと鳴らしながらイルカが襖を開けて入ってきた。
「お疲れ様です」
 カカシが布団の端を持ち上げて招くと、イルカはぎしりと音をたててベッドに腰掛け、髪を結っていた紐を外してガシガシと地肌を解した。
 その姿は昼間の「イルカ先生」からは想像がつかない自分だけが知る姿で、カカシの顔が愉悦に緩む。
「ああ、あったかいですね」
 イルカはふわりと笑ってカカシの横に潜り込む。フローリングの居間で仕事をしていたせいか、カカシの足にあたるイルカの足が冷たい。もうそろそろ何か敷物を敷いておかなければ。イルカはそういう事に無頓着だから、炬燵を出すまでは冷たかろうがなんだろうがそのままだ。
「わ、イルカ先生冷えてますね」
「そうですか? すいませんね」
 それだけ言ってもぞもぞと身体を動かして収まりのいい場所を探しているイルカの顔は、目を閉じていて少し幼い。薄っすらと疲れのたまった顔の口元が、それでも笑っていて。
 カカシは何やら面映いようなくすぐったいような不思議な気分になって、その身体を引き寄せた。
「ね、も少しこっち」
 普段なら自分より体温が高い筈のイルカは全身がしっとりと冷えていて、抱いたカカシのほうがぶるりと震えた。それでも自分の熱が少しずつイルカに移るのが嬉しくて抱きしめる腕の力を強くした。
「カカシ先生、苦しいですよ?」
 苦笑交じりに言う吐息が肩口にかかり、次いで頬が寄せられる。

「あー、でも、気持ちいい…」
「もーっと気持ちよくも出来ますが」
「いや、これで結構です」
「つれないなあ」
「…ん、今はホントにこれがいい…」

 そう言うイルカの顔がとても優しくて。
 なんだかカカシもほだされてしまった。

 あれもこれもしようと思ってたのにな…。

 はじめに思っていたようなことよりも、ただただ抱き合って温もりを分けあうようなこの状況が愛しい。ここが里で、隣にイルカがいて。任務に誇りは持っているが、こんな気持ちにさせてくれるのはただこの人ひとりだけ。首をまわして黒髪に口付けるとくすりと笑いがもれた。
 背中にまわったイルカの手が、いつの間にかとんとんと緩くリズムをとっているのに苦笑する。アカデミーに入りたての生徒じゃないんだからもう…と思ったが、その心地よさに知らずうっとりと目を閉じる。

 なんて気持ちのいい。
 男二人が狭いベッドでぴたりと抱き合いながら眠ろうとしている。
 それは滑稽な光景かもしれないけれど。

 それが幸せなんだもんなあ。

 思わず頬を緩ませているカカシを見て、イルカもまた微笑んだ。身体が温かくなり、心も温かい。こういうのを至福の時というのだろう。

 二人してそう思った、秋の夜更け。




END



(2004.11.02)

30000HITお礼SSですが、自分が寒くて書いた1本(笑)
うちじゃ子供が湯たんぽ代わりです。たまに蹴りをくれる湯たんぽ。一回目の下に入った時は(どんな寝相だ)かなり悶えました。
それはともかく、記念作品は特に甘く(笑) 皆様これからもよろしくお願い致します。
こんなものでよろしければフリーでお持ち下さいませ。






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