今日も昨日と同じ。
 昨日は一昨日と。

 ずっとそうやって生きてきた。
 毎日を繰り返し繰り返し。
 それが悪いことだなんて誰が言える?
 手に入らないものに手を伸ばして嘆くよりずっとマシじゃないか。





「イルカ先生っ! 今日一緒に一楽いこーってばよっ!」

 受付所のドアが派手な音をたてて開き黄色い頭が飛び込んできたのをイルカは苦笑しながら見やり、やれやれと腕を組んだ。

「おーナルト、もう任務終わったのか?」
「うん、今日はカカシ先生が早めの遅刻だったってばよ」
「なんだそりゃ?」

 答えながらナルトが差し出す報告書に目を走らせていく。この字はカカシ先生のに似せちゃいるけれどもサクラのだな等と思いつつ、不備はないのでイルカはポンと受領の判を押した。

「いつもなら三時間遅刻するとこを一時間の遅刻だったから早めの遅刻だってば」
「…はーっ、そういうことか…」
「んで、俺ってばジャンケンに負けてコレ出しに来たんだってばよ。イルカ先生に用事があったしなっ」

 あの人はまた…と溜息を吐きながら報告書を処理済の箱に重ねて入れる。じきに交代時間だなあと机の上も少し片付けはじめるとナルトが顔を近づけてきた。

「でさでさ、一楽行ける?」
「あー、ごめんナルト、今日は残業なんだよ」
「マジ〜っ? せっかくミソチャーシューメンおごってやろうと思ってたのにさぁ」

 青い目に覗き込まれて慌ててイルカが返事をするとナルトが不満げに口を尖らせた。ナルトが急に言い出した理由はわかっているがあえていつも通りに返事をした。

「ありがとなー。でもおごりならいつでもイイんだぞー?」
「ええ〜っ? それはちょっと予算の都合ってもんがあるってば…」
「ははは! 冗談だよ、ほんとゴメンな。今度また連れてってやるからさ」
「わかったってば、仕事じゃしょうがないもんな。じゃ、イルカ先生誕生日おめでとうだってばよ!」

 ナルトは屈託なく笑うと手を振りながら部屋を出て行った。色々と考え込む子供ではないのがイルカには有難かった。




 受付を交代して職員室へ戻り授業に使う資料を作り始める。ナルトに言ったことは嘘ではない。この日にはいつも仕事をしている。
 ここ数年に関してはそれが一番気持ちが楽だったからだ。働いていれば色々と考えずに済む。

 イルカは小一時間ばかり机に向かった後、ギイッと椅子の背凭れに体重をかけ両手をあげて大きく伸びをした。
 と、その手首を急に強く掴まれて慌てた拍子に机に足をぶつけてしまう。

「…カカシ先生」
「や、どーも」
「気配を消して後ろに立つのやめて下さいよ」
「ごめーんね、つい。ああ、ペン落ちましたよ?」

 ぶつかった衝撃で落ちたペンをカカシが拾い机の上に戻した。
 だがもう片方の手を離してもらえないイルカはカカシを見上げて怪訝そうに首を傾げる。

「どうしたんですか?」
「ナルトと一楽行かないんですか?」
「聞いてたんですか。…ええ、行きません」
「それって俺と過ごしてくれるから?」
「違いますよ。仕事があるんです」
「そんなの今日中にやんなくてもイイやつでしょ?」
「……」
「ねえイルカ先生?」

 手首を掴んだままカカシはイルカに言い募り、イルカは眉間に僅かな皺を刻んで見つめ返す。
 
 しばらくしてカカシは溜息を吐きながら手を離し、脇にあった椅子を引き寄せてイルカの正面に座った。

「まったく…。そんなに一人がいいんですか?」

 カカシが発した言葉にビクリとイルカの肩が揺れた。

「もー、あなた判り易過ぎますよ」

 イルカは唇を引き結ぶとカカシを睨み付けた。その顔を見て苦笑しながらカカシはイルカの項を手のひらで掬うように引き寄せた。

「ナルトまで遠ざけて仕事して。でも俺までっていうのは淋しいなあ」

 イルカの額を自分の肩口ににつけるようにしてカカシはイルカを抱きしめた。背中をゆるゆると撫でてやると身体から余分な力が抜けていく。

「俺ね、結構強いよ? そりゃあこんな商売してるんだから絶対とは言えないけどね、でも全身全霊であなたに向かい合ってるつもり。だから目の前にいる俺を否定しないで欲しい。今日っていう日はあなたにとって大事な日でしょう? 一人でいるんじゃなくて俺も一緒に過ごさせてよ」
「いい、んでしょうか?」

 イルカから小さな応えがあった。カカシは目を細めて頷く。

「いいんです。俺たち好きあってるんだから。今日だって何時だって同じだよ?」

 今まで、いや、あの日から長い間イルカはろくにこの日を祝って貰ったことがない。友人の誘いでさえほとんど断ってきた。祝ってもらうことそのものよりも何故か寂寥感が大きくてそれが辛かったから。


 けれど。
 いいのだろうか?
 祝うという気持ちを誰かと分け合っても?


 逡巡するイルカの思いを知ってかカカシは再び告げる。

「いいんですよ」

(ああ…)

 じわりとイルカの目元が光ったが、その口元は微笑んでいた。それを感じたカカシもまた同じように。

「だから俺を連れて帰ってよ」
「…え、と」
「ね、ダメ?」
「…いい、です」
「嬉しい。俺もね、本当は好きな人の誕生日祝ってあげるのって初めてなんで」
「え…?」

 イルカが顔を上げてカカシを見ると照れたように笑っていた。イルカを視線を受けてかりかりと頭を掻く姿はいつものものだ。

「これでもね、結構緊張してたんですよ?」
「そんな風に見えませんね」

 意外そうな顔をしたイルカに、カカシはさっさと片付けて帰りましょうと視線を外した。が、よく見ればほんの少し耳が赤い。
 拘っていた自分が馬鹿らしく思えるほどカカシの言葉がすんなりと胸に収まり、正直自分でも驚いたのだがそんなことはまた後で考えればいいと腰をあげた。

「酒、買って帰りましょう」
「あんまり飲みすぎないでねー」
「…気をつけます」
「家でゆっくりイチャパラするんですからねー」
「…!」


 顔を赤くしたイルカの手をとり、カカシは軽やかに歩きはじめた。



END



(2006.05.27)
(2006.07.05ちょっぴり直し)

誕生祝い(になってるのかどうか?)
突っ込みドコロ満載ですが突貫工事なんで目を瞑ってやって下さい(汗)
ともかく、お誕生日おめでとー、イルカ先生♪

何歳になるのかが凄く気になるけど(笑)





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