求めるもの






木の葉が徹底的に痛めつけられた年、俺のところにサンタクロースは来なかった。
サンタクロースなんて本当は居ないと知っていたけれど、でも俺のところには確かに来てたんだ。
もちろん俺だけじゃなくそんな子供は沢山いたから、それを悲しいと思う余裕もなかったし、思っても言えなかったろう。
ただそれを、大人になってから淋しいと思っただけで。


□■□■□


「あーあ、ホントなら今頃いい酒でも飲んであったかい部屋でイチャパラしてる筈だったのになー」
本日は早朝からAランク任務。ナルト達を引き連れてのDランク任務じゃないから今日明日中に里へ帰れるかどうかも定かではない。
「しょうがないでしょう、任務なんだから。だいたいカカシさんならいつでも選り取りみどりで出来るでしょうに」
答えを返してくるのは長楊枝を咥えた男で、飄々とした風体は自分と多少似たところがあるかもしれない。
「選り取りなんてしなーいよ。俺はあの人一筋だもん」
「えー、カカシさんって決まった一人なんかいましたっけ?」
「人を色狂いみたいに言わないでよね? あの人に誤解なんかされたら後が恐ろしく大変だっつーの。変な噂まいたら承知しないよ?」
「へぇ…怖い怖い。しませんよそんなこと。でも気になるよなー、お相手」
「ゲンマには見せてあげなーい」
「何でです?」
「見せたら減る。ただでさえ無防備に笑顔を晒してる人なのに…」
後半のセリフは口の中でぽそりと。
「は? 何です?」
「なーんでもないよ。さっさと終わらせて帰るよ?」
「はいはい、分かりましたよ。じゃ、俺はあっちから」

軽口を叩きながら、それでも緊張感を失わずに淡々と任務をこなす。
きっちり完了させなきゃ帰れない。ちゃんと報告書を書けるように終わらせないと、恥ずかしくて受付に出せないもんなー。
任務内容に口を出すなんて子供でも絡んでない限りあの人の場合あり得ないけど。同じ忍として、階級がどうであれ手抜きのない任務かどうかを見極める目を持っている人だから、出来るだけいい形で任務を終えたい。
まあとどのつまりはあの人の生徒たちのように俺だってあの人に褒められたい訳だ。
あの人はそれを大人子供の隔てなくしていて、少なからず悔しいところではある。
まあ、その辺がまたあの人のいいトコなんだけど。
クリスマスだって、きっとあの人は子供達と約束してるんだろう。でもきっと夜中まではかからない筈。夜だけでも俺の為に空けておいてくれないだろうか。
任務を出来るだけ早く終わらせて帰るから。
待っていてはくれないだろうか。


□■□■□


「あー、クリスマスなんて楽しいと思える奴らが羨ましいよなー」
イルカの隣でくじ引き用の番号札を作っていた同僚がぼやく。アカデミーの職員室でイルカ達教員は子供達のクリスマス会の準備をしていた。忍の卵とはいえまだまだ子供だから、たまには楽しげな行事も予定される。当然準備するのは教員。子供達に任せられるものはちょっとした飾り付け程度で、多くを望めば逆に大変なことになるのは想定済みだ。
「まあそう言うなよ。子供らは楽しみにしてるし、じき冬休みでしばらくは顔を合わせないんだから」
イルカは苦笑いしながら手を動かす。確かにこの時期正直言ってクリスマス会なんてやってるヒマはないと思うほど忙しい。年の瀬に人手が欲しいのは誰でも同じで、依頼が多いから任務に出る忍が多い。各階級それぞれに色々な任務が振り分けられる。イルカとて外に任務に出ることはないがその分受付所でのデスクワークも増えるのだ。忙しいのに変わりはない。
――カカシ先生も里外の任務に出てるもんなあ。
ナルトたちを通じて知り合った里の内外で有名な忍。写輪眼という大層なもののお陰でビンゴブックにまで載っている忍。そして同性であるにもかかわらず、つい最近自分と付き合うようになった、男。
その特異な立場を考えてそれを誰かに知らせるつもりはまだないけれど。
「クリスマスなんてさ、子供か恋人持ちが嬉しいだけだよなー」
「そうとは限らないんじゃないのかあ?」
「なんだよイルカ。お前だって淋しい一人者だろ?」
「はははー、まあなー」
口に出さなければやってられない、といった表情の同僚に笑いながら相槌を打ち、自分にもクリスマスなんて関係ないよなあ…と改めて思う。きっとクリスマスを二人で過ごすなんてない。あの人に任務が入っていることは振り分けた自分が一番良く知っている。だから、無事に帰ってくれればそれでいいんだ。
――因果な商売だよなー。
思わず乾いた笑いを漏らすと、同僚が頷きながらお互い頑張ろうと肩を叩いた。
――いやいや、相手は居るんだよ俺。……相手も男だけど。
そう言い返すわけにもいかず、笑顔を張り付かせたまま作業に取り組む。逢いたい人がいたって逢えないんじゃ楽しいクリスマスどころか逆に淋しいんだなー、とこの年にして初めて知った。
そもそもクリスマスに期待なんて…男同士でするほうが可笑しいのか。
あの人と付き合うようになる経緯であまりにも色々と自分の常識を覆す事が多くて、何かと感覚が麻痺しているのかもしれない。大体あの人はそんな風に思ってないのかもしれないしなあ。
本当は一緒にいて欲しいのだけれど。
付き合い始めて日の浅い自分がそんなことを言うのは気が引けるし、だいたい男がそんなこと言うのも気持ち悪いかもしれない。そもそもなんていうか…カカシ先生と二人っきりでいると、一杯いっぱいでうまく意思表示が出来ないんだよな。
嫌われるのだけはいやだ。それは確かなんだけど。
キスはした。
でもそれだけだ。ホントにそれだけ…なのかも。
付き合ってるとかそういうこと考えてないのかも…。
カカシ先生から好きだと言われた。けれど俺が過大解釈してるんだとしたら?
自分がその前からカカシ先生のことを好きだったから、好きと言われて舞い上がって。もしかしたら軽い気持ちで言われたのかもしれないし、ただ友人としての好き、だったのかもしれない。だってカカシ先生ならどんな美人だって恋人に出来し結婚だって。何も男なんか相手にしなくたって。
なんかもう、自分がもの凄い勘違いヤローのような気がしてきた…。
「おい、手ぇ止まってるぞイルカ」
考えるうちに手が止まってしまったイルカを同僚が見咎めると、イルカは慌てて作業を再開した。
今考えたって仕方がない。
そう自分に言い聞かせてカカシのことを頭から追い出した。


□■□■□


「カカシさんどうします? 今から里に帰っても真夜中ですよ?」
なんとか任務を終えたのが夕方。ここから里へ帰るにはどうしても時間がかかる。
「ゲンマはゆっくりでもいいよ。俺はこのまま帰る。報告書も出しとくからさ」
「カカシさんが本気で走ったら俺なんかとても追いつけませんからね。後からゆっくり帰らせてもらいますよ」
長楊枝を揺らしながらゲンマが言う。
「悪いね」
苦笑しながら片手を上げて礼を言うとカカシは跳んだ。

――イルカ先生、家に帰ってるかな? まさかまだ受付任務に入ってるなんてないよなあ?
近付いてくる里に、カカシの心が高揚する。辺りは深い闇だったが空が高くシンと澄み切っていた。
クリスマスプレゼントも何もないけど…、いや、俺に欲しいものがあるんだけど…。
あのひとのお帰りなさいを聞いて、自分もただいまと返して。
それから二人で過ごせるといい。俺は休みになるけれど、あの人はどうだろう?
ああ、早く逢いたいよ。


□■□■□


クリスマス会が時間通りに終わらず、受付任務に遅れた分としてイルカは残業をしていた。受付を替わってくれた同僚のかかえていた書類の整理を任されて。受付に座っていれば帰ってくるカカシに逢えるかもしれないとも思ったが、今のイルカにはいつものように笑顔で接する自信がなかった。だからその交代は丁度よかった。
仕事に没頭しているとあっという間に時間が過ぎ、クリスマスイヴも終わろうかという時間になっていた。椅子に座ったまま伸びをするとゴキゴキと音がする。これ以上は無理だとしかたなく重い腰をあげて帰り支度をした。
カカシ先生帰ってきたかな…、きっと無理だよな…。
とぼとぼと家路を辿り、誰も居ない部屋へ辿り着く。いつもと同じように。
子供達と賑やかに過ごしたクリスマスと正反対の静けさ。
居間に入って明かりもつけずに座り込み、はぁっ、と溜息をついた途端に部屋に入り込んでくる影があった。カチリと灯りが点く。
「!」
「あっ! イルカ先生どうしたんです、電気も点けないで! 起きてる気配あるのに真っ暗だから、何かあったのかと思って俺慌てて…!」
「えっ? あ…」
いきなりぎゅうっと抱きしめられて、イルカは何も言えずに離れようと暴れた。
「イルカ先生…? 何か変だよ、何かあった?」
「何でも…何でもありません…」
「何でもないって感じじゃない。俺に言えないようなコト?」
「そんなんじゃありません。ただ…」
「ただ?」
「俺、自信がなくて…、わからなくて…」
いまだ混乱している様子でいるイルカの背をゆっくりとさすりながらカカシは促す。
「カカシ先生に…好きと言ってもらったけど、それは…俺と同じ好きなのかなぁ、とか…」
「俺が一人で良い様に勘違いしてるんじゃないかなあ、とか…」
「こんな風に想われた事がないから、よくわからないんです。今までに付き合った人が居なかったわけじゃないんだけど…、こんな風になった事なくて…」
ぽつぽつと言葉が滑り落ちてくる。
それでも、なんとなくカカシにはわかった。
与えられる事に慣れていない人。
きっと俺の告白に押されて頷いたものの、そのまま流されてしまったんじゃないかと思っているんだろう。そしてこんな日に一人でいるのが辛いのだ、きっと。
溜息をつくとイルカの背をぽんぽんと叩いた。
「イルカ先生、俺の事信用しなさ過ぎ」
カカシが淋しそうに言うと、その顔を見たイルカは自分のベストの胸元をぎゅっと握り締めた。
「ごめ…ごめんなさい。カカシ先生、俺…」
「俺ねえ、ちゃんと本気であなたのこと好きだから。伊達や酔狂じゃないよ?」
「ごめんなさい…」
ふぅ、と溜息をついてカカシが言う。
「あやまらないでよイルカ先生。それよりもっといい言葉があるでしょ?」
カカシが強請るとイルカははっと気付いたような顔をして小さく笑った。
「おかえりなさい、カカシ先生。お怪我はありませんか? 」
「ただいま、イルカ先生。この通り大丈夫。」
手を広げて見せると安堵の表情を浮かべてくれる。そう、その顔が見たかったんだ。
「あー、今日はもうひとつあるよね」
カカシはイルカの額に自分のそれを当てて言った。
「メリークリスマス、イルカ先生。…ねぇ、俺クリスマスプレゼントに欲しいものがあるんだけど」
「え…?」
「俺を、ね…、俺をあげるから、イルカ先生を頂戴?」
カカシの言葉を反芻しているらしいイルカの顔が急に赤くなった。俯いてその顔を隠したが耳まで染まっているのがよく見える。
頬を掌で包んで顔を上げさせると既に目が潤んでいて、カカシはそのままイルカの唇に口付けた。何度も繰り返してから隙間に舌を射し込み、イルカの舌を追いかける。絡め合い吸い上げて、それはイルカがくたりとするまで続けられた。
「クリスマスは恋人と過ごしたいんだけど…。ねぇ、イルカ先生、ダメ?」
「…こ、ここじゃ、イヤです…」
その返事に嬉しそうな笑顔を浮かべて、カカシはイルカを抱え上げた。





(2004.12.22)
メリークリスマス。なんだか薄暗い話に…申し訳ない(汗) 大人の話を後日つけますね。
(2004.12.25)
大人の続きつけました。お子様と苦手な方禁でお願いします。ここからどうぞ。




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