星の数ほど





「星はヤだなあ…」
 夕食の後茶の間でごろごろと寝転がりながら如何わしい本を読んでいたカカシが何か呟いた。卓袱台でテストの採点をしていたイルカはその手を止めて聞き返す。
「は? 何か言いましたか?」
 聞き返されると思っていなかったのだろう、カカシはその眠たげな目を少し開いてイルカを見上げる。何度か口元をぱくぱくと動かし、あー、と所在なげにしてから急いで手で塞いだが、イルカが一睨みすると諦めてその手を剥がした。
「いや、星になるのはイヤだなー、と思って」
 イルカは眉を顰めてカカシを見、なんでまたそんな、と反論した。
「何縁起の悪い事言ってんですか、あなたらしくもない」
「そうじゃじなくて」
「え?」
「えーと、イルカ先生にとっての、ってことです」
「そういう言い方の場合だと普通はいい意味なんじゃないんですか? 希望の星とかそういう」
「いや、それでもなくて…」
「結局何なんですか。カカシ先生言葉が足りなすぎて全然伝わりませんよ?」
 聞いているイルカの眉間に皺が深くなり、もじもじと口ごもるカカシの姿に今度は片眉がピクリと持ち上がる。アカデミーに居ればあと二段階程で雷か拳骨が落ちるところだ。
「んー、口にするのもヤなんですけどね」
「そこまで言ったんだから諦めて全部吐いてしまったらどうです」
「……」
「さあ」
「…星の数ほど、って言うでしょ?」
「何が?」
「……男は星の数ほど居る、って言うじゃないですか。そんな多勢の中の一人になるのはイヤだなー、と思ったんです」
「はあっ?」
「イルカ先生に捨てられたらそうなっちゃうじゃないですか。だからヤだなー、って」
「…カカシ先生…」
 大きく溜息を吐いてイルカは銀色の頭にゴツンと一つ拳骨を落とした。
「イルカ先生、痛い…」
「あのですねえ」
 イルカは頭を押さえて転がるカカシの耳朶をピッ、と引っ張って言った。
「まったくもう、痛いのはこっちの頭ですよ。あのねえ、この耳でちゃんと聞いて下さいよ? 俺はそう簡単に捨てたりしませんから! 大体男は星の数ほどって何で男限定なんですかっ!」
「えー、だってー」
「語尾を延ばすなっ! …まあアレですね、そういう事ばっかり言われているとそのうちにそんな気になるかもしれませんけどね」
「えぇ〜〜っ!?」
 いきなり起き上がり飛び掛ってきたカカシを受け止めきれずにイルカは勢いよく仰向けに転がった。押し倒された、ともいう。ごいんと鈍い音がして後頭部を押さえたイルカが呻いた。
「痛って〜っ!」
「だめですっ! 絶対だめっ!」
 抱きついたままぐりぐりと頭をイルカの腹に擦り付けるように嫌々をするカカシと、それを剥がそうと潰されたカエルのように苦戦するイルカ。
「痛いし重いです。退いて下さい」
「捨てられたりしたら俺何するか分かりませんよ! イルカ先生のことぼろぼろのボロ雑巾みたいに抱き潰しちゃうかもしれない…!」
「普段とあんまり変わらないじゃないですか」
 ぽつりと漏らされたセリフにキィーッとむきになる上忍。
「…っわ! 酷っ! 何でそんなこと言うんですか〜っ」
「だって本当のことだし。あなた大概辛抱きかないじゃないですか。そもそもカカシ先生が変なことを言い出したからこうなったんですよ? なんで星なんか出てきたんですか?」
 言われたカカシはあー、とかうー、とか首を捻りながらしばし考える。とりあえず俺の上から降りて考えてくれとイルカがカカシを蹴り飛ばして身体を離すと、情けない顔でああっと手を伸ばしてきたから更にぺしりと叩き落とした。
「イルカせんせぇ〜」
「話をする時に余計なことはしなくてよろしいっ!」
 先生モードにスイッチが入ったイルカが正座に腕組みでカカシを見下ろしたので、カカシは仕方なく背中を丸めておとなしく座った。
 そもそもは今日の任務が商店街の七夕飾りの飾り付けだったことらしい。大きな笹を何本も立て、飾りも盛大につけながらサクラがナルトにせがまれて牽牛と織女の話をしてやった。ナルトは単純に好きな人に年に一回しか逢えないのは淋しいから可哀想だという反応をしたらしいが、サクラは若くても女だから色々と思うところがあったらしい。年に一度の逢瀬がロマンチックだなどという夢は既に無いようで、牽牛が甲斐性なしだというところまで話が大きくなった。そこからだんだんと話がそれて男なんて星の数ほどいるのだから、もっとイイ男を見つけ直したほうがいいのよ、ということにまで行き着いたらしい。思春期の女の子らしいというか、サクラにしてみれば自分に対しての言葉でもあったのかもしれないのだけれど。
 そんなこんなで。
 まんまと目の前の男の頭に「星の数ほど」という単語だけが残ったというわけだ。ザルにも程がある。さっきの男限定な発言を思い出して再度ムカムカとし、目の前にある頭に拳骨をもう一つ落としてみた。
「いい加減にして下さいよ、いちいち過剰に反応してたら俺の神経が持ちません」
「だから言いたくなかったのに…」
「知られたくないならもっとキッチリ隠しておいて下さいよ」
「それが何でかできないんですよね〜。イルカ先生んちだと気が抜けちゃって」
 ふにゃりと顔を緩ませるカカシを見て、いい年した男を何やら可愛く感じてしまうとは自分も末期だとイルカは首を振る。
 なんでこんなのがいいのかなあ。
 誰も答えてはくれない疑問に自嘲の笑みを浮かべると、怒んないで下さいよ〜といつの間にか自分の膝の上に頭を乗せたカカシが見上げていた。
「捨てたくならないように頑張って下さいね」
「全力で頑張りま〜す!」
 ホントなんでこんなのがいいのかなあ。
 ちょっとお星様に訊いてみたくなるイルカだった。





(2005.07.07)

…七夕?
情緒皆無な人たちです(笑) いや、皆無なのは私か…(ばたり)





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