誕生日のプレゼントって難しい。
酒?
洋服?
忍具?
当然の如く身体で、ってのも考えたんだけれど、恥ずかしがりの俺の恋人が素直に受け取るとはどう考えても思えない。
ああ、どうしよう。
やっぱり難しい。



「何難しい顔してるんですか」
「へ? あ、や、何でもないです」
いつものように上がりこんだイルカの部屋でカカシは卓袱台に片肘をついて考え込んでいた。向かい側ではイルカがテストの採点をしている。
最近になってアカデミーが再開され、外へ出る任務のかわりにまたデスクワークが増えたようだ。カカシはカカシで毎日色々なランクの任務に忙殺されている。ただ、留守がちだった以前とは違って夜になればイルカはこの部屋に帰ってくるので、自分が里にいる時にはこの家に入り浸りだ。いってらっしゃいだとかお帰りなさいだとか、俺が言って欲しいのはこの人だけだから。
「何でもないって顔じゃなかったですけど…、任務の事ですか?」
「あー、任務じゃあないんですけど…。ま、そんなに気にしないで下さい」


去年のイルカの誕生日にはまだ今のような仲ではなかった。それでも部下達に便乗するように祝おうとしたのだ。
それなのに誕生日を祝われるのは苦手なんです、と困ったような顔で言われて尻尾を巻いて退散した悲しい記憶が蘇る。人一倍淋しがりなこの人が祭りの後の静けさを酷く嫌がるのを今でこそ解っているが、その時は嫌われたのかと一人煩悶したものだ。そして今年は何かとイルカに纏わりつく少年も怪しげな仙人と一緒に修行の為に里を出ている。
「カカシ先生?」
「あっ、ホントに何でもないですから」
ひらひらと顔の前で手を振って見せるとイルカは少し首を傾げたがまたペンを持つ手を動かし始め、カカシはそれを目の隅にとめたまま愛読書を開いた。


その日のぎりぎりまで任務中もつい考えに耽りがちだったカカシだが、結局は自分が嬉しいであろう事にしようと落ち着いた。
考えに考えたそれがイルカの喜ぶものかどうかはわからなかったけれども、とにかくこっそりとイルカの上司を押さえて定時で仕事をあがらせた。自分はとっくに火影から日帰り任務をもぎ取っている。
職員室に顔を出し、連れ立ってアカデミーを出た。いつもより少しだけ良い店で食事と酒を楽しんで、たまにはと強請ってカカシはイルカを自分の家に連れ帰った。
そう、イルカ先生の家じゃちょっとだけ狭いからね。


「イルカ先生、今日誕生日だったでしょう?」
カカシの部屋へ帰り着き、荷物やベストを外して寛ぎながらカカシは切り出した。
「え、覚えていたんですか…?」
イルカは少し眉を下げ、困ったような照れたような顔をしている。
「俺が忘れるわけないでしょう。去年だって本当はお祝いしてあげたかったんです。でもまあ、派手な事はあなたが嫌がるかなあと思って」
「…すみません」
「ああ、イルカ先生が謝ることじゃないんです。ただ俺が何かしたかっただけで」
「カカシ先生…」
「本当はね、ゆっくり温泉にでも行って風呂入って美味いモン食って…ってのが良かったんですけど、今の任務状況じゃお互い休みなんてムリでしょ? だから今日はいつもより少しだけいい物食べて飲んで、あとは家でのんびりして貰おうかなあ、と。だから今からね、俺が三助になってサービスしますよ」
カカシがにこにこと告げるとイルカは慌てて左右に首を振った。
「えっ…? いっ、いいですよ、そんな…」
顔を強張らせて遠慮するイルカを風呂場に引っ張りこんで服を脱がせる。自分も上半身は脱ぎ捨ててタオルを握った。
「はいはい、もーいいですから諦めて大人しくして下さいよイルカ先生。暴れると滑って頭を打ちますよ?」
往生際悪く暴れるイルカを椅子に掛けさせ、背中を擦りはじめると観念したのかやっと大人しくなった。それでも気になるのかちらちらと見上げるイルカの身体を丁寧に洗い髪も洗う。普段のイルカは間違ってもトリートメントなんかしないタイプだから、カカシはことさら丁寧に仕上げた。もちろん途中で肩や背中のマッサージも忘れない。普段から肩凝り気味のイルカのツボを的確に押さえてほぐしていく。
「う…ん…気持ち良いです…」
「そう? 良かった」
「すいません、俺ばっかりしてもらって」
「金のかからないプレゼントですけどねえ」
「いえ、嬉しいです。こんな風にゆっくりするのもなんだか久し振りだし…、俺はつい忙しさにかまけがちだから…。カカシ先生ありがとうございます」
振り返って見上げるイルカの顔が本当に嬉しそうで、カカシも思わず笑顔になる。一通り終わってイルカを入浴剤の入った湯船に浸からせると、うっすらと香る花の香りと湯加減が丁度いいのかイルカはうっとりと目を閉じた。
「はぁ…」
思わずであろう口元から漏れた満足気な吐息にカカシはイルカを見下ろした。
艶っぽい…。
いやいや、今日はそういうんじゃなくて…。
一応予定としてはイルカ先生に気分良くなってもらおうということなんだから…。
今襲い掛かったりしたらまた怒らせてしまって、せっかくの気分が台無しになってしまうだろうし…。
カカシは考えた。写輪眼がぐるぐるまわるくらい考えた。
結局考えた末というより考えるまでもなく、がばりとズボンを脱いで放り投げた。
ざぶ、と湯に飛び込めば男二人の容量で盛大に湯が流れ落ちる。
「わあっ? 何すんですか! もったいないっ!」
「まぁいいじゃないですか今日ぐらいの贅沢は。せっかく温泉の素も入れたんだし」
「だからもったいないんじゃないですかー」
ぶつぶつと文句を言うイルカを宥めて向かい合わせに腰を落せば、小さくもない身体のせいで狭い湯船の中脚と脚が絡まりあう。
「もー、狭いのに無理矢理入ってくるから窮屈じゃありませんかっ」
「そお? 俺としてはなかなか美味しいシチュエーションですけどねぇ」
ニヤニヤと笑う顔にぱしゃりとお湯を引っ掛けてイルカは赤い顔を反らした。
「せっかく背中を流してもらっても、これじゃゆっくり出来ないです!」
「まあまあ」
「カ、カカシ先生っ」
「ね?」
「んっ…ッ…」
イルカの反論を綺麗に無視して身体を寄せ、カカシは目の前の身体に指を這わせた。たかが湯船だ。イルカに逃げる余地などなかった。
「イルカせんせ…」
「ちょ、やめ、湯が汚れ…」
「あとでちゃんと掃除するから…、ね?」
「な…、も、ばか…っ」
うっすらと上気した頬と洗い髪を項に貼り付けた姿の恋人に、手を出さずになんていられるわけがない。誕生日だから何でも言う事を聞いてあげようと思っていたけれど、ここで止めるのだけは無理です聞いてあげられない。この状況で大人しくしていられるほど枯れちゃあいない。ごめんね、イルカ先生。
「お願い…」
許しを求めて額に、こめかみに、頬に、唇に口付けを落としながら、熱い身体を抱きしめていた手が不埒に動き回る。
ちゃぷちゃぷとさざ波をたてながら湯が二人に纏わりつく。自然と背に縋りつくようにまわされた腕が嬉しくて、カカシは微笑んだ。それを見たイルカは悔しそうに目の前の首筋に齧り付いた。
「あなたばっかり…、余裕綽々で、ズルイ…」
肩にぴりっと生じた痛みに苦笑しながらカカシもイルカの唇を再度捕らえる。
「余裕なんかないよ。こんなトコで盛るくらいなんだから…」
何度も舌を吸い上げ絡ませながら片手を下肢に伸ばすと既に首を擡げたお互いを握り込む。湯にも負けぬ滑りを借りて何度も掌を滑らせるとイルカの身体がびくびくと震えた。
「あ、あ、んぅ…」
合わされた唇が外れ、その隙間からしどけない吐息が漏れる。カカシはぬめる指先を後へ這わせてゆっくりとくじった。
「んんッ!」
衝撃にイルカが仰け反り湯がまた大きく跳ねた。喘ぐ身体を宥めながらそこを押し広げ中にある敏感な部分を何度も刺激すると、イルカは身を捩り力の入らない拳でカカシの胸を押しながら「もう…」と涙を零す。目を細めて熱さばかりではなく赤くなったイルカの耳朶を甘く噛みながらカカシは自身を突きたてた。
「んッ、ああッ…!」
イルカの腰を掴み自分の上に乗せるようにして揺らすと、イルカは堪らないといった風情で首にしがみついてくる。押さえきれない声が明るい室内に響いてカカシを高揚させた。イルカのほうはもうそこまで気にしていられないようだった。
「や、熱…」
「は、ぁ、可愛いね、イルカせんせ」
「…うるさ、ッ、ん…」
睨みつけられても嬉しいだけだって…。
カカシはそう思ったがあまり苛めるとあとがコワイ…というか、そういうつもりではなかったことをやっと思い出して一気に追い上げにかかった。


「カカシ先生…」
寝台のヘッドボードに寄りかかって水を飲むイルカが恨めしげにカカシを睨んだ。カカシは苦笑しながらその横に腰掛けて謝る。
「ごめんね、つい我慢できなくなっちゃって…」
「何が、つい、ですか…」
呆れたように言うイルカだったが、片手を伸ばしてくしゃくしゃと銀髪を撫でる。
「まぁ、でも」
軽く溜息を吐きながらカカシの顔を覗き込んだ。
「カカシ先生がね、一緒に過ごそうと考えてくれたのは嬉しいです」
イルカはそう言って笑った。
「特別欲しいものなんてないんです。普通にこうしていられるのが一番嬉しい。それで…」
「それで?」
カカシが先をせっつくと悪戯をする子供のような顔をしてくつくつと笑い、口元に人差し指をあてた。
「…ナイショです」
「えーっ、そこまで言っておいて?」
「うーん…そうですね、カカシ先生の誕生日までとっておきましょうか」
「そんな先まで? ずいぶんと焦らしますね」
かなわないなぁ。
「悔しいから、も一回しよ?」
「悔しくなくてもするんでしょう?」
もう一度かなわないなぁと呟いて、カカシはイルカの持つグラスを受け取り脇にあるテーブルに置いた。
「まだ今日は終わらないしね、たっぷりサービスしますよ」
「今日くらいは優しくして下さいね」
「心外だなあ、いつも優しくしてるでしょ?」
「そうかなぁ」
どちらともなくクスクスと笑いながら口付けを交わしあい、腕を絡めた。
きっとお互いがこうしていられる事が何よりの贈り物。
多分イルカは。
直接自分の仲間を失う事は俺より少なかったのだろうけれど、きっと今までに送り出した生徒が沢山いたはず。そしてその安否を、今でも風の噂でさえ気に掛けているはずだ。巣立って行った今はいない俺の部下達のように。だからこそ日常を大切にするのだろう。
だから俺は。
いつまでもいつまでも。


あなたの生まれた日を祝ってあげたい。





(2005.05.23)

イルカ先生お誕生日おめでとう!
でも結局何歳になるのか微妙にわからないままという…(苦笑) 去年は永遠の25歳かと思っていたんですけどねえ? あ、二年半後でまた25歳か!?
それにしてもうちのイルカ先生は毎年カカシ先生に仕掛けられています(汗) 私はイルカ先生漢前を目指しているのになぁ…。カカシ先生はヘタレ気味で。





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送